ウラ

 その出会いは、運命でした。


 出会いは、受験の日。両親に勧められるがまま受けた、いわゆる「受験慣れ」のための高校で、受かるだろうが通うつもりもなく、それほど緊張はしないつもりでした。

 しかし実際には緊張してしまっていたようで、受験票を落としてしまっていました。校舎内に入る前に受験票を確認しようと思っていたのに、鞄のどこを探しても見つからないのです。

 「ねえ、そこの人」

 取り乱しているところで、後ろから肩をつかまれました。つい過敏に反応してしまいましたが、声の主は嫌な顔ひとつせずに、拾っていただいたらしい受験票をこちらに向けていました。

 「これ落としてたよ」

 雷に打たれる、というのはまさにこのことでしょう。微笑みながらこちらに手を伸ばしている、そのお姿を目にした途端、体がなにもいうことを聞かなくなりました。

 「……大丈夫?」

 そうお声をかけていただいて、ようやく小さく首を動かすことができました。そんな小さな動きでも伝わったようで、目の前の方は満足そうに笑いました。

 そしてなかなか受験票を受け取らない私の手に、ぎゅっと握らせて、

 「これから受験? 緊張してるみたいだけど、頑張って」

 そうしてその方はグラウンドの方へと走って行かれました。

 「……お姉様」

 そうして、私はこの高校に入学することを決めたのです。


 *****


 私がお姉様のことをもっとよく知るためには、問題がひとつありました。接点がないのです。

 まず同じクラスになることはあり得ません。学年が違うのですから。

 次にお姉様は出会った時の格好からして運動部でしょう。一方の私は中学では帰宅部で、放課後は図書室に入り浸り。体育の成績はお情けで落第ではない程度といった有様。同じ部活に入れば、ご迷惑になることは想像に難くありません。

 そして、受験の日に運命的な出会いを果たしたとはいえ、それは一瞬のこと。もし万が一仮に私のことを覚えていたとしても、それで話しかけていただけるとは考え難いです。

 つまり。私の方から話しかけ、その上で距離を近づけていく必要があるのです。そしてその為には、何よりも第一印象を良くしなければなりません。良い方向にインパクトを与えられるように。


 自慢ではありませんが、私の見た目は、はっきり言って地味です。特にケアしていない、なぜか長い髪。読書のための夜更かしで疲れ切った目。引っかかるようなところのない体。そして極めつけにおしゃれとかそういうのを気にしたことのない眼鏡。三つ編みお下げが似合う女子ランキングをクラスで取れば、上位に入ること確実といった風貌をしているわけです。いえ、別に三つ編みが悪いわけではありませんが。

 ともあれ、お姉様に出会った翌日、私は変わることを決意しました。

 幸い、母が職業柄ファッションに詳しかったので、相談先に困ることはありませんでした。とにかく時間がなかったので、母の教えのまま雑誌を読み、コンタクトを入れ、髪をいじり、化粧を学び、お肌を管理し、コーディネートの勉強法について知りました。

 そうして私は生まれ変わりました。1月で嘘だろうと思うほどに。中学のクラスメイトに出会ったとしても、気付かれないだろうという母のお墨付きもいただいたほどです。

 そうして準備はできました。あとは、もういちど出会うだけ。


 *****


 そうしてお姉様と再会を果たし(案の定私のことは分からなかったようですが)、16歳の誕生日にせがんで手に入れた1人暮らしで、私はお姉様に囲まれる生活を手に入れました。

 引越の時に、母から男性を連れ込まないようにと冗談交じりに注意されましたが、その心配は杞憂というものでしょう。

 仮に、どなたかがこの部屋に入られたとして。その方はいったいいつまでこの部屋に留まっていられるのでしょうか。この、全面にお姉様の写真が貼られた、私だけの天国に。

 「おはようございます、お姉様」

 壁に張ってある写真に挨拶をする。ひとつひとつに、部屋を1周するように。上を向き、下を向き、こちらを向いているお姉様にも、遠いところを見ているお姉様にも。

 「ああ、お姉様……今日も凜々しい……」

 最近のお気に入り、部活に勤しむお姉様の写真を眺めていると……つい、我慢ができなくなってしまいました。お姉様のお顔を、首筋を、チラリと映るお胸をなめ回したくて仕方がなくなってしまいました。

 「お姉様……お姉様……」

 ……我に返ったときには、でろでろになってしまっていました。朝からこれではいけませんね。しかし、写真の方は印刷し直せばよいのですから、良い世の中ですね。


 ともあれ、そろそろ準備をしなければなりません。まずはカーテンを少しだけ開け、向かいのお家を観察します。2階の左側がお姉様のお部屋です。お姉様は朝目が覚めると、カーテンをお開けになります。どうやら今日もいつも通りお目覚めになったようですね。

 もちろん、覗いたりなんかしません。お姉様の許可なくお姉様の生活圏を冒すつもりは、私にはさらさらないのです。ただ、いつも通りの起床であれば、いつも通りの時間に学校に向かわれるでしょう。それはつまり、いつもと同じ電車に乗るということ。それさえ知ることができたら、あとはお姉様が近くにいらっしゃると感じられるだけよいのです。

 さて、いつも通りということなら少し急がなくてはいけませんね。母に言われたように、薄く、際立たせるようにメイクを施し、髪を団子にまとめつつ、中にカメラを仕込む。外から見えないことをしっかり確認して、いじったり頭を振っても落ちてこないことを見て、そして映り具合を見る。

 「よしっ」

 髪に隠れながらも後ろが見えている。そう、髪のカメラは後ろ用です。前は、制服の胸ポケットにさしたペンで撮ります。

 さて、学校の準備は昨日のうちに済ませてあります。そろそろ出発しないと、お姉様の乗る電車に乗れなくなりますね。


 ******


 駅に着いたら、まずは学校とは反対方向の電車に乗ります。余裕を持つために、お姉様の乗るだろう電車の2本前に乗るようにしています。この電車は混んではいますが、1駅で降りるのでさほど問題にはなりません。電車を降りたらいったん改札を出てホームを変え、お姉様の電車に乗り直します。そうすることで、お姉様に私が向かいに住んでると思われないようにしているのです。

 そしてお姉様の駅に着いてドアが開くと、お姉様が微妙な顔で私を迎えてくれます。嫌われているわけではない……はずです。

 その証拠に、こうやって寄っていっても眉間に皺が寄ったりしません。

 「おはようございます、お姉様」

 「……そのお姉様っていうの、いい加減やめない?」

 お姉様はお姉様と呼ばれるのを……少なくとも、公共の場で呼ばれるのをあまり好ましく思ってはいないようです。ですが、私からすればお姉様はお姉様なわけですし、お名前をお呼びする方がかえって恐縮してしまいます。それに、場所によって呼び名を変える方が変な感じがしますから、お姉様なりの照れ隠しの挨拶なのだと思うことにしています。

 今日もお姉様は眠たげな目をしてはいますが、体調はよろしいようです。と、鞄に目を向けると、見慣れないものが目に入りました。

 「あ、そのストラップ」

 これは……見たことがありませんが、おそらくはまたアニメなどに出てくる柄だったりするのでしょう。

 そう、私のお姉様はアニメや漫画が大好きなようで、こうやって目立たないアクセサリーなどをお付けになることがあります。その一方で、どうもそういう趣味をお持ちであることは知られたくないようで、どうにか隠そうともしているそうです。

 まあこのストラップの元ネタはあとで部活仲間に確認するとして、今はお姉様のご意思を尊重するとしましょう。

 「たしか前は違うの付けてましたよね」

 「あ、ああ、そう。昨日クレーンゲームで拾ったから。せっかくだし付けようかなと」

 ゲームセンター。行ったことはありませんが、話にはよく聞きます。どなたかお友達と……ではないでしょうね。それなら、アニメが関連しているものは興味ないふりをなさるでしょうし。

 しかし、興味が沸いてきます。お姉様は、ゲームセンターではどのようなお顔をなさるのでしょうか。

 「今度、私も連れて行ってくれますか? ゲームセンターって、あまり行ったことがないんです」

 「え? まあ、また今度ね」

 苦笑いを浮かべながら頬をかいているお姉様の顔を見て、体よく断られていることは伝わりました。……分かっていた答えではありますけど、それなら、お尋ねしない方がよかったのかもしれません。

 それなら、もしかしたら連れていっていただけると夢想することもできたでしょうに。


 ******


 数ランク落とした高校ですから、はっきり言って、多くの授業は私にとって退屈なものです。とはいえ、油断していると躓いてしまうと父にも忠告を受けていますから、授業はちゃんと聞いています。

 「――はい、じゃあ今日はここまで。期末も帰ってきて気が抜けるとは思うけど、もうちょっとがんばってね!」

 英語の先生はそう言いながら教室を出て行きました。今日はこれでお昼休みです。

 お昼休みは時間との闘いです。唯一、ほぼ確実にお姉様とお会いできる時間です。とはいえ焦ってはいけません。お姉様が食事を終えるまでに向かえば、ご迷惑になってしまいます。それに、以前10秒チャージで向かったら心配されてしまいました。だから、まずはちょうどよい頃合いを見ながら私の食事を済ませ、それから2年棟に向かうのです。


 焦ってはいけないとはいえ、2年棟に入るとどうしても早足になってしまいます。お姉様に早くお会いしたいのもありますが、やはりまわりに上級生しかいないと考えると緊張してしまうのです。

 そうしてたどり着いた勢いのまま、お姉様の教室の扉を開きます。

 「お姉様! ご飯は食べ終わりましたか?」

 そう声を掛けると、ちらりとクラスの皆さんの視線が私の方に向いて、また戻っていきます。毎日のことですから、慣れたものなのでしょう。

 そうして周りを探りながらお姉様の方に近づいていきます。空いている椅子は、ない。これは好都合です。

 急いでご飯を掻きこんでいるお姉様がお弁当箱を置く頃を見計らい、そっとお膝の上にお邪魔します。

 「あとで奢りだかんな」

 急にお姉様が声を上げたのですが、お顔はよっしーさんの方を向いています。……どうやらゼリーを取られたようですね。お可愛いところも、お姉様の魅力です。

 と、急にお姉様の足が開いて尻餅をつきました。……そういうことなら、一声いただければ腰を上げましたのに。

 口をとがらせてお姉様の方を見上げますが、どうにも顔をそむけられてしまいました。と、お姉様の方もなにやら苦虫をかみつぶしたようなお顔をしています。

 「……なに」

 前を見ればお姉様を愛でるようなご友人達の顔。

 「いや、ほんと姫ちゃんに弱いなって」

 ここはお姉様の反応を見たいところですが、髪のカメラを意識してから振り返れば、記録が残せますね。

 ……が、残念ながら振り返る頃には表情は戻ってしまっていました。仕方がありません、後で確認しましょう。


 今日は、ジュリさんがトランプを持ってきたと言うことで、大富豪をされています。トランプは前を向いていてお姉様をカメラに写しても違和感が出ないので助かります。

 お姉様方の大富豪は妙にルールが多いので、パズルのように勝てる場合もあるのです。今のお姉様の手も……うまく行けば2、3手で上がれそうです。

 「そういえば週末なんだけどさー。ゆめんち集まらない?」

 よっしーさんの言葉にお姉様が咳き込みました。そうして慌てるようにそのまま手札を切りました。

 「あ」

 「え?」

 「いえ、お姉様がそうするなら」

 ここでJを切ると、ちょっと辛くなりそうですが……まあ切ったものは仕方がありません。

 お姉様の方は、勝負よりも自室に人を入れないようにすることに必死のようです。

 「だから、前から言ってんじゃん、鬼汚いからウチは無理だって。てかウチじゃないとだめなの?」

 「いや別にそんなことはないけど。でも中学ん時はゆめんちにも行ってたからさ」

 「お姉様のお家……」

 ……こういうところで、このご友人達にはかなわないと思い知らされます。今後、私が踏み入ることのないだろう場所に、彼女たちはすでに入っているのだと。同じようでも、大きな差があるのだと。

 「とにかく、ウチは無理だから。ゆりかんちは?」

 「また? まあいけるけど」

 「じゃあゆりかんちに集合で。あそうだ、姫ちゃんも来る?」

 無関係だと思っていたので、危うく無視してしまうところでした。お茶を飲んでいたら吹いていたことでしょう。

 「わ、私ですか?」

 ご友人達の顔をみて、それからお姉様の顔をうかがいます。

 ……分かっていたことですけど、あまりよい考えではなさそうです。お友達の皆さんにとっても。これは一種のテストなのでしょう。

 「せっかくのお誘いですけど、こうやって昼休みの間だけでもお邪魔できて幸せですから」

 「そう? あ、上がりね」

 見るとゆりかさんは本当に上がってしまったようです。全然気付きませんでした。

 「はいこっちも終わり」

 そうしてお姉様が大貧民になったところで予鈴が鳴りました。

 「じゃあ、今日はゆめの負けってことで」

 別に何かがあるわけではないですが、お姉様を勝たせてあげられなかったのは不満ですね……。


 *****


 放課後は、文芸部の部室に顔を出して、先輩方とご挨拶を交わします。

 「そろそろ新刊はできそう?」

 「いえ、あと半月ほどはかかるかと」

 「楽しみにしてる人もいるってこと忘れないでね~」

 先輩方から暖かい声をいただきながら、今日は予定があるとお伝えして帰ります。予定というか、今日はお姉様が早くお帰りになる曜日なので、私もなるべく時間を合わせて帰ろう、というところなのです。

 この時間を合わせる、というのがなかなか厄介で、お姉様は部活で汗を流してからお帰りになるのです。だいたい6時になる前にはお家に到着するようには帰るのですが、地味にばらつきがあります。

 と、いうわけで。校舎からテニスコートを眺めます。流石にお姉様がいらっしゃるかまでは分かりませんが、下校時間でもないのに部室棟に向かっている人がいれば、おそらくお姉様でしょう。

 外を眺めている間、どうにも考えを巡らせてしまいます。私はお姉様のお部屋に行きたいのでしょうか。私は、お姉様とどうなりたいのでしょうか。

 朝に夢想したような、互いの肌を重ねるような関係? もし本当にそのようなチャンスが訪れたとしても、今の私では、きっと恐れ多い気持ちの方が先に来て、実物を前にはなにもできないでしょう。

 そこまで行かなくとも、お姉様と定期的にお会いできて、お姉様のことをもっとよく知ることができれば、それでよいのかもしれません。つまるところは、現状維持でも。

 しかし。来週のことを考えるとついついため息が出てしまいます。来週からの夏休み。私には夏休みの間、1月以上もお姉様に会う機会がないのです。たとえ偶然を装って出会ったとしても――朝やお昼休みのお姉様の顔をつい思いだし、そうしてまた不安になってしまうのです。


 ……今日はどうにも遅いですね。これだと6時に間に合わなくなったりはしないのでしょうか。と思ったらテニスコートから出てくる人影がひとつ。きっとお姉様です。

 私もゆっくりと帰る準備を……と思いましたが、どうにもお手洗いに行きたくなってしまいました。いま向かわないと、少し遅れそうではあります。そうはいってもせっかくのお姉様との下校を、我慢しながらでは楽しめない。それに、遅れるとはいっても、私の足でも追いつけるはず。たぶん。電車の時間的にも、きっと大丈夫でしょう。

 うん。


 さて、すっきりしたところで急ぎましょう。念のためお姉様の下駄箱を確認して。

 「……あれ?」

 靴がある? 考えたら部活から帰るのだから、靴があるのはどう考えてもおかしいです。

 「忘れ物でもなさったのでしょうか」

 そうだとすれば、教室にいらっしゃるのかもしれません。

 そう思ってお姉様の教室に向かう途中。

 「あ……」

 お姉様がいらっしゃいました。どなたかとご一緒に。

 あれは、確かお姉様のクラスの委員長さんですね。ノートを抱えて、なにか困っていらっしゃるような。そして印刷室の前であることに気付いて、とりあえず助け船を出すことにしました。

 「お姉様」

 そうお声を掛けるとお姉様はびっくりされたようで、ゆっくりとこちらに振り返ります。

 「今日はもうお帰りですか?」

 そう聞くとお姉様は大事なことに気付いたようにはっとされました。

 「あそうだった、教室に宿題忘れてきたから。委員長もまた明日」

 「あ、ま、またあした」

 委員長さんはそれで慌てて去って行きました。うんうん、いいことをしましたね。

 お姉様の方は、仰られたとおり宿題を取りに教室に向かわれました。一緒に帰るなら、付いていった方が簡単ですね。


 *****


 帰りの電車は空いているので、お姉様と並んで座ることができます。一方で、前後どちらのカメラでもお姉様を映せません。まあ、仕方がありませんね。

 今日は……どうにもお姉様のお顔に目を向けられず、うまく言葉が出てきません。そうして目線を下げると、今度は少し日に焼けた首筋が無防備に晒されているものですから、きゅっと手を握ってうつむくしかありません。

 そうしてしばらくもじもじしていると、お姉様の方も頭を掻いたりと居心地が悪そうでした。これではいけません。なにか、なにかお話をしないと。

 「あの、お姉様は、やっぱり休日にまで私と会いたいとは思っていないのですよね」

 口から出た言葉は、ただでさえ悪い空気をさらに悪化させるものでした。しかし、一度出した言葉を飲み込むことはできません。

 「えっと、なんで?」

 お姉様は戸惑っていらっしゃる様子で、思いのほか嫌に思っているようではありませんでした。こうなれば、いっそのこと話を進める方がよいでしょう。

 「お昼休みのとき、お姉様はなんだかあまりいい顔をしてませんでした。それに朝だって、お姉様のお返事はその場だけのものでしたよね」

 お姉様は気のない声を上げ、頭を掻いています。そしていつもの困り顔。

 「やっぱり、ご迷惑ですよね。いつも私が勝手に押しかけているだけですし」

 「あー、まあそうかも」

 迷惑であるということにお姉様があっさりと同意したことは、思った以上にぐさりと突き刺さりました。そうかもしれない、が、そうだ、に変わってしまうことが、こんなに辛いものだなんんて。

 と、お姉様が ぶんぶんと首を振りました。

 「じゃなくて、確かに私から会ったりはしなかったなって」

 同意したのはそちらでしたか。しかし、あまり気分はよくはなりませんでした。

 「それは……私に会いたくないから」

 「だからそうじゃないって。そもそも、会いたいとか思う前に後輩ちゃんがいるわけだし」

 言われてみれば、お姉様が来るのを待ったことはありません。そもそも、お姉様が私に会いに来てくださるということを考えたことすらありませんでした。そんな、身に余る、こと。

 「だから…‥まあ、会いたい気持ちの差は大きいとは思うけど、別に後輩ちゃんが嫌なわけじゃないから」

 「そう……なんですか?」

 「そうそう」

 嫌じゃない、と言われて急に体から力が抜けました。お姉様が嫌がっていたのは単にオタバレすることで、私のことではなかったんだ。そう、はっきりと言ってくださいました。

 「では今度のお休みにお会いできますか?」

 抜けた気とともに出てきた言葉は、私にとって思いがけないものでした。でも、お姉様にとってはある程度予想していたものだったようです

 「いい……けど次の休みはゆりかんちだから、来週なら」

 来週のお休みといえば、もう夏休みです。お姉様と、夏休みにも会えるなんて。

 「じゃあお姉様のお部屋に」

 「それはだめ」

 まあ、それはそうですよね。でも、ただお会いできるだけでも十分嬉しいです。

 それで、うれしさのあまり完全に緊張がほどけました。

 ああ、本当に、よかった。

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