第17話さあ、復讐だ
かつて主君であった信長に背いて反乱を起こし、
皆殺しにされながらも少数の家臣と共に
事前に脱出して一人生き残った
潜伏生活を送りながら、信長に復讐するチャンスを待っていた。
だが本能寺の変を起こした
しまい、目標を失った村重は無気力になっていた。
そんなある日、濃姫がわびしい住まいに尋ねてくると
「信長は生きており、黒人の弥助の家にかくまわれています。
恨みのある者同士、協力し合って一緒に退治しましょう」
といったので村重は一も二もなく承諾したのだった。
そういうわけで、村重は信長最愛の小姓、
薬で身動きの取れない信長の前で惨殺してやろうと張り切っていた。
もちろん、その後で信長も殺すつもりだ。
「武田が滅びた後、枕営業で
いい気になっていたのだろうが明智が反乱を
起こしてくれたおかげで全部無駄になっちまったな。
ったく、戦場で手柄を立てたこともない小姓の尻と
城を等価に扱うなんて許せねえ! もう二度とあんなことや
こんなことができないようにしてやるぜ!」
村重は鼻歌を歌いながら真っ赤に熱した火箸を
美しい少年のやわらかいつぼみに突き刺そうとした。
主君を人質に取られている以上、反撃できないので
お乱は歯を食いしばってこれから来る苦痛に
耐えようとしていた。
しかし濃姫が花瓶の水をぶちまけて邪魔をしたので
村重はいらだって
「何するんだよ! 火箸が冷めちまったじゃねえか!」
と怒鳴りつけた。濃姫は悪びれもせず、
「そんなきれいな体に傷をつけるのはやめてよ!
売り物にならなくなっちゃうじゃない!」
と叫んだ。実家がとうの昔に滅んでおり、経済的に行き詰まっていた
濃姫はお乱を再び奴隷商人に売り飛ばすつもりだったのだ。
「そうよ、お濃さんの言う通りよ! 私、嫁に行く前に
そのきれいな人と火遊びするつもりだからケガさせちゃだめ!
これからは伯父さんばっかりに独り占めさせないんだから!」
と横から茶々も加勢した。
「村重! わしの宝を傷つけたら許さんぞ! それから
そこにいる痴女め! お乱はわしのものだ!」
と叫んだ信長の首筋に村重は刃物を突き付けて黙らせた後で、
「ギャアギャアうるさい女どもめ! このおれに指図
しようってのか! 邪魔なんだよ!」
と怒鳴りながら今度は女たちにも刀を向けた。
一瞬のスキを見逃さず、お乱は村重にとびかかって
床になぎ倒した。二人の女は悲鳴をあげて外に
飛び出して行った。
「そもそもおまえだって妻子を見殺しにして
自分だけ逃げたじゃないか! おまけに交渉にきた
虐待しやがって!」
「何だと! 女子供まで焼き殺すような奴の味方をするのか!
お前のきれいな顔をぐちゃぐちゃにしてやるからな!」
村重はお乱の上にのしかかって押さえつけると、
顔に切りつけようとしたが、天井の梁の上から
カエルが飛び降りてきて村重の顔面にへばりついた。
「ギャアアアア! 気持ち悪い!」
ぬめぬめした感触に耐えられず、刀を放り投げて絶叫しながら
村重は姿を消してしまった。カエルが異能力を使って
遠くに空間転移させたのである。
信長は一糸まとわぬ姿の愛人(男)の腕の中で、
「お乱! けがはないか?」
と尋ねた。お乱は真っ赤になりながら、
「上様! おれのようなつまらない者のために
自らの身を危険にさらすのはおやめください!」
と言った。
「何を言っているのだ。おまえの代わりなどいない」
「上様……」
二人は互いの唇を接近させたが、
「何いちゃついてるのよ! 無残に殺された父の敵を取ってやる!」
とわめきながら、茶々が弓を手に信長に向かって
突進してきた。お乱はとっさに
「上様が危ない!」
と叫んで丸裸のまま信長の前に立ちはだかった。
茶々はよだれを垂らしながらその姿に見とれてしまい、
「なんて真っ白なもち肌。さわってみたい」
などとつぶやいて危うく本来の目的を忘れそうになった。
信長は少し悲しそうな様子で茶々を見ながら
「茶々、さっき父親の敵を取るとか言っていたが、
おまえの本当の父親はこのわしだぞ!」
と語りかけたのでこのいかれた小娘はますます興奮してしまった。
「はあ!? 何、でたらめを……! 殺してやる!」
突然、入り口からお市が
「いいえ、本当よ。嫁入りの前の番に兄さんと一線を越えてしまったの」
と言ったので茶々はもちろん、お乱と松寿も衝撃を受けた。
「うそだ! 信じない!」
と叫んで泣きわめく茶々の背中をお市が
やさしくさすってやっている間に茶々が放り出した弓を拾って
お乱は外に投げ捨てた。だが近くに隠れていた濃姫が
それを拾い上げると、信長めがけて矢を放った。
とっさに小倉松寿が主君をかばって盾になったので
矢は松寿の胸に刺さった。もがき苦しむあわれな少年を
濃姫はあざ笑いながら
「ああそれね、矢じりに羽柴秀吉愛用の女体化薬が
塗ってあるだけだから死にはしないわ。今日はこれで
おいとまするけど、近いうちに決着をつけに来るわよ」
と言い捨ててかき消すように姿を消してしまった。
「松寿、大丈夫か!? ごめんよ、おれが矢を
捨てたりしたから……」
とおろおろしながらお乱は言ったが、
「それより高貴な姫君の前にいるんだから早く服を着ろ!」
と松寿はふてくされた様子で答えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます