第11話羽柴秀吉、信長を薬で女体化しようと試みる

 暴風の中から脱出し、間一髪で

沈没を免れたポルトガル船は無人島に

たどり着いた。そこは温暖な気候で

色とりどりの花が咲き乱れ、うまそうな

果実をぶら下げた木がたくさん生い茂っていた。

清らかな泉があるので飲み水の心配もなさそうで、

航海に疲れていた少年たちはすっかり上機嫌になり、


「さては極楽浄土に迷い込んだかのう」

と軽口をたたく者までいた。

 一行は船を降りるとさっそく

島の探検に取り掛かり、森の中にある

石造りの立派な建物を見つけた。

この不思議な遺物に興味をひかれた信長は


「あの石造りの建物は何だろう?

 お堂か何かのようだな。

 ちょっと中をのぞいてみよう」

と言いながら、一人でどんどん中に入っていってしまった。


「おれは上様のお供をするからその間に皆で

 食べ物や水の調達をしていてくれ」

と後輩たちに指示すると、森おらん森蘭丸もりらんまる)は

主君でもあり、恋人(男)でもある信長に続いて

なぞの建築物の中に消えていった。

その様子を見ていた安田作兵衛やすださくべえ

気づかれないように二人の後を追ったが、

迷宮のような建物の中で迷子になってしまい、

たちまち恋人たちを見失ってしまった。

 お乱たちは知る由もなかったが、それは古代の神を

祀った神殿で、ある時期を境にこの島ごと打ち捨てられ、

今は誰からも忘れ去られた存在だった。

重い扉を開けて室内に足を踏み入れたとたん、

大勢の裸の人間たちが互いに絡まり合って

乱交している様子を描いた壁画が

視界に飛び込んできたのでお乱は

顔を赤らめながら目をそらしたが、

信長はしげしげとそれに見入っていた。


「なんといやらしい。早く皆のところに戻りましょう」

と言いながらお乱は出ていこうとしたが、

この部屋の中に漂う淫靡な雰囲気の中に身を置くうちに

すっかり欲情してしまった信長は


「おらんーっ、愛してるぞーっ!」

と叫びながら神聖な祭壇の上に愛しの小姓を押し倒した。


「キャーッ! 上様ったら、さっきあんなに

 ヤリまくった後なのにまだ足りないんですか!?」

と悲鳴をあげて押しのける真似をしながらも

お乱は笑みを浮かべていたが、ふと天井に描かれた

豪華な服装の女性と目が合ったような気がして

激しく動揺した。それはこの神殿に祀られた女神の絵で、

その美しい顔は寝ても覚めても思い続けている

明智光秀の娘、玉に瓜二つだったのだ。

お乱は背後から主君に激しく突かれてあえぎながらも、


「あの美しいお玉殿は今頃、謀反人の娘として

 さぞかしつらい思いをしているのだろうな。

 遠い異国の地に隔てられていなければ

 あの横暴な男から力ずくでも奪い取ってやるものを」

などと心ここにあらずの状態で物思いにふけっていた。

それに気付いた信長は


「わしと抱き合っていながらほかのことを考えるのは

 やめにしろ!」

とささやきながら、真っ白な首筋や肩を甘がみした。


「ああ、何という責め苦だろう。これでは

 まるで愛するひとの目の前で

 自分が犯されているかのようだ」

などと心の中でつぶやきながらも、

奴隷商人に殴られて傷ついた

主君のことをあわれに思ったお乱は

腫れ上がった顔に何度も口づけしてやった。

するとどういうわけかたちまち傷は癒えて元通りに

なった。二人がいる部屋にようやくたどり着いた安田作兵衛やすださくべえ


「憎らしい恋敵め! 顔を変えて変装するとは

 卑怯な野郎だ! おまえの首を手土産に

 してエテ公に取り入ってやる!」

と叫びながら、神にささげるいけにえを突き刺すために

天井からつるされていた宝剣を手に取ると、

物陰から飛び出して信長えものに襲い掛かった。

信長は攻撃を避けようとして体をひねったが、

突然、激痛に襲われて動けなくなってしまった。

まだ体力が回復しきっていないうちに

年甲斐もなくアレを頑張りすぎて

ぎっくり腰を起こしてしまったのだった。


「もうだめだ!」

と死を覚悟した信長だったが、お乱は作兵衛を

思い切り足蹴にしてすばやく撃退した。

お乱は奪い取った宝剣を作兵衛の喉元に突き付けながら、


「上様に手を出すのはやめろ! さもなくば、

 今すぐおまえを殺してしまうぞ!」

と脅した。例の異能力をもっている作兵衛には利用価値が

大いにあるので、殺すことはためらわれたのだ。


「噓つきめ! おまえはそいつを愛していないときっぱり

 言っておきながら、なぜかばうのだ?」

と嫉妬に駆られた作兵衛は口角泡を飛ばして怒鳴った。信長は


「もしやお乱は本当はわしのことを……」

と胸をときめかせながらお乱が次に発する言葉を

今か今かと待っていた。そんな主君の気持ちを

知ってか知らずかお乱が


「いや、おれが上様のことを愛していない

 というのは本当だ。しかし亡き父の代わりに

 おれたち兄弟を保護してくださった

 主君をお守りするのは当然の事だろう」

と答えたので今やあわれな中年オヤジでしかない

信長は落胆のあまり、死にそうな顔になった。


「ガハハハッ! 振られちまったな!

 権力がなくなったらただの変態エロ親父だもんな!」

と大声で嘲笑った直後、突然、作兵衛は

左ほおのあたりを手で押さえながらうずくまった。

見るとカエルのような形の赤いこぶができているので、


「魔性の力を持つ生き物を食ったたたりだな」

とお乱はあきれた顔でつぶやいた。

 意気消沈した信長は少しの間黙り込んでいたが突然、


「おい、さっきおまえが言ってたエテ公とは

 もしや、あの羽柴の猿のことか!? あの猿め、

 四国攻めに手間取っているとか理由をつけて

 しつこく援軍要請をしてきたのは

 わしを安土から呼び出して明智のキンカン野郎に

 討たせる気だったのだな!」

と叫びながら作兵衛に詰めよった。

 ところがその直後、外から恐ろしい獣の

唸り声と悲鳴があたりにこだましたかと思うと、


「兄さん! 上様をお守りして早く逃げて! この島には

 猛獣がうじゃうじゃいる! おれ以外の連中は

 みんな食べられてしまった!」

と叫びながら、森坊丸もりぼうまるが血まみれの姿で

飛び込んできたが、力尽きてばったり倒れた。


「坊! しっかりしろ!」

と言いながら駆け寄ろうとしたお乱の目の前に

ネコ型の巨大な猛獣が牙をむいて立ちはだかった。


「上様! おれがこいつと戦っている間に早くお逃げください!」

とお乱は絶叫したが、今や建物全体が

猛獣の群れに囲まれて逃げ道などなかった。


「おまえら、こんな凶悪な畜生どもとまともに

 戦おうとするな! おれと一緒に来い!」

と叫びながら作兵衛は二人の首根っこをつかんだ。

次の瞬間、三人の姿は消えて、頭が混乱した

猛獣どもは共食いを始めた。

 瞬間移動の力を使って日本に到着するとすぐに、

作兵衛は気を失った主従を羽柴秀吉の元に

連行していった。作兵衛はずるそうな笑いを浮かべながら


「羽柴のお殿様、こいつらを生け捕りにしてまいりました。

 ご褒美には何を頂けますでしょうか?」

と尋ねたが、


「ご苦労であった、褒美に死を遣わそう。

 おい誰か今すぐ、この裏切り者の首をはねよ!」

という答えが返ってきたのでびっくり仰天した。


「それはあんまりでございます!」

と悲鳴をあげながら作兵衛は大急ぎで

例の力をつかって姿を消したが、

お乱のことも連れていってしまった。

やがて目を覚ました信長は真っ赤になって


「猿め、あの不気味な男から全部聞いたぞ! 

 わしの息子を差し置いてわしの葬式で喪主を

 つとめやがるとは生意気な! こうして

 わしが生きている以上、おまえは明智と同じく

 裏切り者だぞ!」

などと怒鳴り散らした。ところが秀吉は

悪びれもせず、


「申し訳ございません。ですがもはや今となっては

 すべてを上様にお返しするわけにはまいりませぬ。

 わしと夫婦めおとになっていただければ、

 すべて解決できるでしょう」

などと言い出したので信長は耳を疑った。

秀吉が手で合図すると、大勢の屈強な男たちが現れて、

毒々しい色の液体を満たしたたらいに信長を沈めた。

度を越した女狂いの秀吉は近隣諸国の美女を

あらかた狩りつくしてしまったので、

夜な夜な見た目が好みの男をさらってきては

薬で女体化して自分の妾にしていたのである。


「おお、お市さまそっくりになった! わしがまだ

 木下藤吉郎と名乗る小者だったころ、愛情たっぷりに

 草履を懐で温めてあげたのに罵詈雑言を浴びせられて

 どんなに傷ついたかあなたはおわかりですか?

 積もる恨みはしとねで晴らして差し上げます」

 このようなことを耳元でささやききながら、

変態エテ公こと秀吉は女体化薬につけられ意識を失ったままの

信長を抱きかかえて寝所に消えていった。

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