04 時の針を回してみよう。戻すことは……許さない




 俺が目覚めてから、既に4年が経過していた。

 


 行動を起こすのは簡単だったが、無策なのはいただけない。何より、与えられた情報と現在の情報がかみ合っているかすらわからない状態で動くのは自殺行為だと思ったからだ。

 百聞は一見に如かず……だったろうか?



 そして、色々と分かったことがある。

 


 この世界、『パンデルシア』は王制ではなく『マルテリア教』によって統治された世界であること。

 そして、『世界樹:ユードルラシア』の幹を少しだけ削って創設された、『マルテリア教』の総本山とも言える『大神殿:ユーテシア教会』、それを中心として広がっているのが『神都:ユーテシア』が人界の中心である。


 

 まぁ、政治と宗教が一緒になってるあたりにかなりの不安を覚える。政治と宗教を別組織にしても、組織同士での癒着が行われることで良い結果にならないのは皆も知っての通りであろう。にもかかわらず、その二つを同じ組織で行っているとなれば、もはや何かを期待するだけ無駄だろう。もっとも、『闇の子』が受けてきた扱いを思えば、腐っているのは今更だが。

 『世界樹:ユードルラシア』を中心とした大地の各地に都市や村があり、それを『マルテリア教』から管理を委託されている存在を貴族としている世界で、皇帝や王などという存在はいない。重要な決定事項は、基本的に『神都:ユーテシア』にて行われる、中央による独占政治の色がかなり強い。



 そして、俺が一番驚いたのは、『大神殿:ユーテシア教会』の防御力そのものである。 



 実際にやろうとは思わないが、今の俺なら前世の核反応を魔術的に引き起こして、そのエネルギーをぶつけることも可能だ。が、何百重にも張り巡らされた魔術障壁によって完璧に阻まれるだろう。結果、周辺に拡大している『神都:ユーテシア』は崩壊しても大神殿だけは無傷で残るだけだ。



 次に内部情報を集めるために、前世の知識で生み出した魔術的な式神や機械技術によるドローン偵察を決行したが、それもすべて失敗した。

 まず、空からの侵入に対して警戒は、一定範囲内に近づいた時点で即座に察知される。あとは撃退されておしまいだ。魔術の式神は、そもそも障壁そのものによって近づけることが出来なかった。ならば、『世界樹・ユードルラシア』によって構成されているこの世界の大地の流れ、前世で言う地脈のような流れを逆探知して内部の様子を調べる手段を使ったのだが、魔術障壁が張られているところを境に、流れがまったく見えなくなった。正確には、流れは見えるのだが、何処からが本物の流れで、何処からがダミーなのかすらわからない状態になっていた。

 本格的に、大神殿の魔術的な守りがどうなっているのか。自分の存在がばれることを覚悟のうえで調べた結果、大神殿を円形、つまり地面の下までしっかりとカバーされた状態での干渉不可能領域になっていた。


 

「ここまで徹底してるんだ。大神殿に敬虔な信徒として入り込む時ですら、入り口で魔術的なチェックをかけてるだろうな」



 冷静に判断した結果、基本的には近づくことが出来ないという結論になったのである。



 また、『マルテリア教』が抱えている直接戦力もいる。

 まず、各地方の守りとして派遣されている『枝葉の騎士』。騎士であって団ではないので、派遣されているのは個人だ。それでも、小型から中型程度の魔獣など、想定されている有事には対応できるだけの実力と、有事に対しての権限を渡されている存在。



 さらに、『神都:ユーテシア』を守るために、もっと突っ込んで言えば大神殿・・・だけを守るための戦闘集団が『幹の騎士団』である。

 その総勢は500名程度。

 単純な守りを意識するだけなら少ないが、一般騎士の能力ですらずば抜けて強い。それこそ、『枝葉の騎士』が4人がかりで『幹の騎士団』の一般騎士1人相当の強さだ。

 中でも5人の騎士長と、その頂点に立っている騎士団長はやばい。

 一度、遠目で見る機会があったので覗き見たのだが、少なくともこの世界での戦闘になれていない今の俺では勝てないと思わせるほどには……。

 魔力量の問題や力の質、そういったものを通り越した異質な存在であると記憶している。与えられた自分の力を過信して、いきなり実力行使しようとしなかったのは正解であると、今でも思っている。



 そんなわけで、俺は正面から堂々と大神殿に入り、司祭を3人殺害した。

 それと同時に、少しだけ手間がかかったものの、とある少女を誘拐することに成功した。



(いや、俺が近づけないと言ったのは裏からであって、正面から普通に入れないとは言ってないからな。うん)    



 前世の教会でもあった、休日に行われる一般公開のミサ。それにあたる『木令拝』と呼ばれる日に、見た目を誤魔化す魔術道具を使って一般人に紛れ込んだのである。

 そして、それぞれが祝福を授かるために前に出て、殺した3人の司祭と誘拐した少女の前に跪く瞬間があり、その瞬間に擬態をわざと解除して司祭を殺し、物理的にも魔術的にも守られた少女を誘拐したのである。



 なお、これは一週間ほど前の話だ。



 age.12903.04.09


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