02新たな世界、新たな体。そして新たなる闇



「痛い……」



 目が覚める。

 美紀みきが用意していた爆弾による爆殺。あれは確実に俺を、藤咲黎ふじさきれいを死に至らしめるものだった。



 ――そんな自分がなぜ目覚めたのか?



 などと、問いかけることはしない。

 自分が目覚めた理由も、今どんな状況なのかも……。すべて把握している。

 


 簡潔にまとめると、異世界で死んだ子供の体に魂だけ移された。

 それが全部であり、この異世界の神様直々の頼みを聞かなければいけない立場となった。



 この異世界の名前は『パンデルシア』と呼ばれる世界。

 中央に『世界樹:ユードルラシア』と呼ばれる、世界丸ごと創造した『女神マーテレア』が残した命の源となる巨大すぎる樹がそびえ立つ世界。神の唯一の誤算とされる存在、魔獣を駆逐するために剣と魔術、それに加えて科学技術もある程度は進歩している世界。

 


 世界樹……なんてものを聞くと、ちょっと神話に詳しい人ならば北欧神話を思い出すだろう。

 そして、それを肯定するかのように階層構造となる世界。



 人が住む世界――人界:フェルステッド

 魔獣が住む氷に閉ざされた世界――雹絶界:ヨトゥール



 現在、確認されているのがこの二層の世界であり、多くの学者たちの予想では他にもあるとされている。が、確認した人も、確認しようとする人もいない。

 そして、ここがこの世界の一番特徴的であり、現代日本の世界から移動してきた俺としては、変わっているとしか思えない世界のルール。

 


 ――この世界の人間は女性しか存在しないこと。



 神様の趣味に文句をつけるつもりはないが、ぶっちゃけ……子孫繁栄の手段はどうなってるんだ! と思うだろう。

 だが、『世界樹:ユードルラシア』がある限りは全く問題ない。子供を欲しいと思った女性が、『世界樹:ユードルラシア』と『女神マーテレア』を信仰する世界唯一宗教『マルテリア教』を訪れる。

 そうして訪れた女性が三日三晩、祈りを捧げることで子供を授かることが出来る。そんなシステムによって子供は増える。しかも、祈りを捧げている際に、どんな子供が欲しいのか? それを問いかけられ、問いかけに対して近い子供が与えられる。



 理想の子供づくりとも言えるだろうが、同時に自分の思った通りの子供ではない。そう主張して子供を育てるのを拒否する者も少なからずいる。そういった場合、子供は『マルテリア教』が抱えている孤児院に送られ、女性は新たな子供を授かることも可能。



 自分の理想に近い気に入った子供が手元に来るまで何度でも繰り返せる……まるで現代日本のアプリゲームのガチャのようなシステムだが、それによって一定数の子供が必ず確保されているとも言える。まぁ、三日三晩連続で祈り続けるのも並大抵の労力ではないのだが……。



 だが、そこにこそ世界の闇が産み落とされ、そして育ってしまった。

 ゆえに、俺の魂がこの世界に呼ばれた理由だ。



 話を唐突に変えるが、この問いかけをした時に君はどう答えるだろうか?



 ――光の反対は?



 そう問いかけられた時、多くの者がこう答えるのではないだろうか? それは『闇』であると。

 実際には違う。



 『光』ある所に生まれるのは『影』だ。



 『光』が自然的なものであれ人工的なものであれ、そこに生まれるのは『影』なのだ。

 それゆえに教えよう。

 好き勝手に子供を生み出す行為を『光』とした場合、そこに『影』が生まれないのか? その答えは……生まれるのだ。

 


 『マルテリア教』が隠している事実。

 子供を願い生まれた時、実は子供は2人・・生まれる。願いに寄り添って生まれた子供と、対照的に望まれないがゆえの要素……、影としてこの世界に生み落とされた存在。望まれた者を生み出す過程で出る残りかすを集めたかのようにして生み出される存在は、余りにも不完全で脆弱な存在。『マルテリア教』では、その二人の子供を『光の子』と『闇の子』と区別し、『闇の子』は表に出ることなく処分される。



 言葉通り、処分である。

 それこそが、この世界の本当の『闇』であり……人の業だ。


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