逃走①
「すまねぇな野原」
「本当は墓とか作ってやりたいんだが」
だが、そんな事をしている余裕が無いのが全員が理解している。
「今すぐ逃げるって、急にどうしたんだよ」
突然息を荒げ、探索者達に逃げるのを勧める松本に永石が尋ねた。
「今、野原と植村が言ってた何かが追いかけてきてるかもしれない!」
――――最初は軽い気持ちだったんだ。
俺だけ全然活躍してなくて迷惑しかかけてなかったから、みんなが部屋を探索してる間にこっそり別の部屋を探そうとしたんだ――――
「ここも何もなさそうだな」
一人で別行動をしていた松本は手当たり次第部屋を探していた。
「ここは?」
この階は一通り回りきってここが最後の部屋で、少し焦りを感じでいた松本は慌てた様子で取っ手に手をかけた。
「開かないな...」
どうやら鍵がかかっているようだ。
だが、このまま収穫ナシでみんなのところに帰れば失望されるのは確実だろう。
そう考えた松本は無理やりでもこの開かない扉を開けてやろうと思った。
幸い扉は木製で突進でもすれば開きそうだ。
だが、謎の化け物がいるとすれば確実に居場所がバレるだろう。
「でも、行くしかないよな」
腹を括って扉を強引にねじ開けた。
木の割れる音が響き渡る。
そして部屋の様子を確認しようとそぉっとのぞき込むと、
そこには「化け物」が立っていた。
明らかに生き物とは思えない見た目をしていた。
髪の毛は引き抜かれた痕があり、眼球は垂れている。
顔は真っ青だし口元にはうっすらと血の跡がある。
そして、そこら中の皮膚が剥がれ、首も変な方向に曲がっている。
何より右手に握られているナイフが圧倒的な殺意を物語っている。
恐らく「これ」を見て平静を保てる人間はいないだろう。
松本は息をするのを忘れるくらい必死に走り、皆のところへ戻った。
皆に迷惑をかけるなんてことは考えなかった。自分が生き残ればそれでいいとまで思ってしまった。あの化け物は追いかけてきているのだろうか。怖くて振り返ることすらできない。
死にたくない、死にたくない、死にたくない。
涎が垂れ、涙が視界を塞ぎ、転んでも四つん這いになって必死に逃げた。
それからは何も考えず、ひたすら走り、走り、走った。
そして現在に至る。
「お前それ...」
探索者達は恐怖した。
松本の言う事が本当なら、植村や野原を襲った化け物がこの階にいて、松本を追いかけて近くにいるという事だ。
「確かに、さっき感じた嫌な気配がする...」
植村が言うならその化け物で間違いないだろう。そいつに見つかったら確実に殺される。
「でも野原が...」
アキラの言う事は分かる。いくら自分たちに命の危機があっても「彼」をそのままにさせる事はできない。
「でもここで死んだら野原を弔うとこだってできなくなるでしょ!」
皆の躊躇いはミカの一言で一蹴した。
「そうだな。あいつは俺らに生き残ってもらうためにここまで体張ったんだからそれに答えないといけないよな」
ミカの一言に植村が同意した。
「おい松本、立てるか?」
そして永石が松本に肩を貸そうとした瞬間―――
「奴」が部屋の入口から顔をのぞかせているのに気が付いた。
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