森②

開けた場所にある「それ」は屋敷だった。

一見立派な建物に見えるが窓は割れ、ツタが伸び、今にも崩れそうな外見をしている。


「これ、ガチのやつやん...」

彼らはこの屋敷に入るのを躊躇った。

当然だ。消えてしまった植村を追いかけてきたが、必ずここにいるという確証がない。

明らかに雰囲気のある屋敷にわざわざ入ろうと思う人はいないだろう。


だが、そう上手くはいかなかった。


―――植村の悲痛な叫びが屋敷の中から聞こえてきたのだ。

今にも殺されそうな、そんな叫びだった。



「あぁクソっ!あいつなんで屋敷に入ってるんだよ!」

「さっさと連れ戻そうぜ!こんな怖い所御免だよ!」


さっさと見つけて戻ればいい。そう念じて勇気を振り絞る。


「でもやっぱこえぇよ!」

しかし、永石が思い切って扉に手を掛けた瞬間、アキラが我慢しきれずに弱音を吐いてしまった。


恐怖とは伝染するもので、彼らはたちまち負の感情で一杯になってしまった。

「そんな事言うなよ!俺まで怖くなってくるだろうが!」

「やっぱり戻ろうぜ...あいつなら大丈夫だろうし...」

「でも、ここで見捨てたら一生恨まれそう...」


もはやここまでか...

人間とは愚かなもので、いくら他人想いでも緊急時には自分第一になってしまう。

彼らもまた、恐怖に囚われ、自分の事しか考えられなくなっていた。


―――だが、一人だけ違った。


「お前ら、こんなんでビビってんのかよww」

松本だ。

そんな空気の読めない発言に普通なら怒っても当然だが、逆に彼らのやる気に火をつけた。


「あ?バカにしてんのか?」

「お前、植村連れて帰った後覚えとけよ?^^」

「しゃーない、さっさと終わらせようぜ!」


「植村を連れて帰るだけ」、あまり深く考えずに扉を開けることにした永石。




「じゃあ、開けるぞ」

そういってこの禍々しい屋敷に足を踏み入れる彼ら、改め探索者達であった。

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