第9話特許権
「ぼやぼやしないの、タケシ君。このままだったら、どこの誰ともわからない馬の骨にトンビに油揚げをかっさらわれてしまうわよ」
「その通り、タケシさん。先発明主義……最初に発明をした発明者に特許権を与える制度。例えば、同じ発明をした者が二人いた場合、出願日にかかわらず、先に発明した者が特許を受ける権利を有する。アメリカではこの考えが一般的で、先に発明したのはタケシさんなのだから、誰かがタケシさんの手柄を横取りしようとしたとしても法廷で争うことができた」
お、ミナ。いいところに。
「そうだろう、ミナ。俺が発見したアイデアなんだから、そう急がなくてもいいんじゃないか? いや、それどころか、誰かが製品化して稼いだ利益を横取りすることだってできるんじゃないか……『争うことができた』?」
「それは過去の話。アメリカでもほかの国に倣って先願主義……最初に特許出願を行った者に特許権を与える制度。例えば、同じ発明をした者が二人いた場合、どちらが先に発明をしたかにかかわらず、先に特許庁に出願した者(出願日が早いほう)が特許を受ける権利を有するという法律に改正された」
「そうなのか、ミナ」
「そう。タケシさんが考えたみたいに、後でこっそり『それ自分が発明してました』なんてサブマリン特許を主張する人間が出てこないように」
「それなら安心よね、タケシ君。あのスマホを連動させるアイデアはタケシ君のオリジナルなんでしょ。だったら堂々としていればいいわ」
「アケミさんの言う通り。だから一刻も早く出願をしなけらばならない。電話の発明でベルに先を越されたエジソンみたいにタケシさんをさせてはならない。法律に関してはこの生き字引のミナが担当しよう」
「これは心強い味方ができたじゃない、タケシ君。計算事務能力に優れたこの委員長のアケミと、暗記の鬼として学年主席の座を私と争っているミナさんが組めば鬼に金棒よ」
「タケちゃん、幼なじみのわたしもいるよ。コンテンツ産業に関しては、ソーシャルゲーム大好きのわたしが力になれるよ」
「わー、ありがとう。ヨウコ、アケミ、ミナ」
心にもないことを言う俺がいる。これは面倒なことになった。そんな俺にスマホのアプリ姿が板についた魔王が嬉しそうに言ってきやがるのだ。
「これは心強い味方ができたのう、タケシ。まるで戦士と僧侶と魔法使いを従える勇者のようではないか。いったいどんなラスボスの魔王を相手にするのかのう?」
「黙れ、魔王。お前のあられもない姿で金もうけをやつらは企んでいるんだぞ。それについてお前はどう考えるんだ」
「はっはっは。我の姿にこの三次元の人間どもがしっぽを振って夢中になると言うのも悪くない。今にして考えれば、人間を手下のモンスターを使って亡ぼせばいいというのは短絡的な考えじゃった」
「そうですか」
「やはり、物事は大局的に考えねばいかんのう。二次元の世界にいたころはそれができんかった。こうして、はるかな高みから見下ろすと新しい発見ができるな」
くそ、平面フラットのくせに。三次元の俺たち人間が二次元の魔王に支配されるのか。
「タケシよ。せいぜい我をお前ら三次元の人間が崇拝するように励むがいい」
「誰がそんなことをするか。どうして人間の俺が魔王のお前を手伝わなければならないんだ」
「それは、お前ではなくほかの三人がすっかりやる気になっているからじゃ」
???
「タケちゃん、あたし頑張るよ。あたしのオタクの知識を総動員してタケちゃんの作った魔王ちゃんアプリを全世界のオタクのアイドルにするからね」
「タケシ君よ、事務手続きはわたしが担当しよう。タケシ君はしっかりそのアプリのアップデートにいそしむがいい。まずは言葉を外国語にも対応させないとな。期待しているぞ」
「タケシさん。特許に関してはわたくしに任せてください。いままで理数系で赤点を回避させてくださった恩をいまこそ返して見せます」
「この通りじゃ、タケシ。なにせこの三人は我のことをただのアプリと思ってるからのう。それもこれもお前がついたでたらめのせいなのじゃが……どうする? 今から本当のことを話すか? しかし、ゲームの魔王が二次元のままこの三次元の世界に現れたなんて信じてもらえるかのう?」
まずい。へたをすると、嘘をついたことでおおいに糾弾されかねない。
「まあこの魔王である我が、愚民を納得させるだけの理屈をでっちあげる手伝いくらいはしてやってもいいぞ。我もこの世界のことに興味があるしな。自然科学だけでなく、社会科学や人文科学にも興味が出て来た」
「そうですか」
「それには、我の存在をこの世界の科学とやらで証明させるのが一番じゃな。せいぜい研究にいそしむがいい。ゲームで我のような魔王を倒してきゃっきゃしていたお前が、その魔王の存在を科学的に証明するのじゃ。これもカルマかの」
ペーパー魔王 @rakugohanakosan
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