第7話女子更衣室

「それじゃあタケシさん。わたくしは水着に着替えてきますから……」


「ああ。俺も水着に着替えてくるよ。男子更衣室でな」


 きちんと更衣室の男女を区別しておこう。俺が間違って女子更衣室に入るとか、女子が間違って男子更衣室に入ってくることがないように……よし! そんな安易なラッキースケベは起こりそうにないぞ。安心して水着に着替えるとしよう。


「ふふふ、タケシよ。そうはこの魔王がさせないぞ」


 そんなことを言うが魔王。俺の存在する三次元に干渉できない二次元フラットのお前にいったい何ができるんだ。


「たしかに我はタケシの三次元空間には干渉できないかもしれない。だが、干渉できないと言うことは、逆に一切と我の行動を阻害されないと言うことでもあるのじゃ」


 なんだと? あ、二次元フラットの魔王がドアの隙間をすり抜けていく。


「あー、暑い暑い。こんな日はプールでさっぱりするに限るわね。先生にも許可取ったし」

「たしか物理の補習で使うとか何とか」

「そんなの隅っこでちまちまなんかやるんでしょ。うちらはうちらで楽しみましょうよ」

「ええと、こっちが女子更衣室であっちが男子更衣室ね。しっかり確認しとかなきゃあ。ドアを開けたら男子がいるとかありえないし」


「ふふふ。どうじゃタケシ。二次元フラットの我が少しばかり小細工をしただけで、この世界の女どもが貴様が着替えているこの空間に侵入してくるぞ。さてどうするのじゃ、タケシ」


「ぐ、なんて卑怯な。それにしても魔王よ、こうも三次元空間で自分だけ二次元フラットであることを利用するとは……さすがは魔王だと誉めてやろう」


「ほほほ。最後の遺言くらいは死闘を繰り広げたよしみで聞いてやってもいいぞ」


「だれがそんなことをするか、魔王。貴様が自分が二次元フラットであることを利用するのならば、俺だって貴様が二次元フラットであることを利用させてもらう」


「なんじゃと?」


「こうするのだ、魔王よ」


「なんと、二次元フラットの我をタケシの前半分に重ねるだと」


「これで前から俺を見たら魔王であるお前が見えるはずだ。さて、この三次元世界に干渉できない二次元フラットなお前だって自分の存在が大勢に知られるのはまずいだろう?」


「ぐ、タケシ。お主の言う通りじゃ」


「さて、それでは魔王。お前のいかにも魔王でございと言ったそのまがまがしい服を脱いでもらおうかな」


「なんと、タケシよ。この魔王である我に全裸になれと言うのか」


「そうだとも。魔王であってもお前の外見は一見したところ人間の女の子と変わらないからな。頭に生えた日本のつのは水泳帽子で隠してしまえ。お尻のしっぽは前から見ただけでは気づかれないだろう」


「お尻のしっぽだと、タケシ。貴様、我のしっぽでよからぬ感情を抱いているのではあるまいな」


「だれがそんなことをするか、そんなことをしたら二次元フラットなお前の股間にシャープな部分ができてしまうだろ」


「しかたあるまい、タケシ。今回は貴様と協力してやろう」


「あれ、先客? ひょっとして物理の補習するって子? 見かけない顔じゃん」

「わあ、おっぱい大きい……あれれ、なんだか平面を錯覚で立体にしているようなおっぱいね」

「あんまり見ちゃあだめだよ」

「それにしても、女の子ならすこしは恥じらいを持ちなさい。いろいろ隠すとかしなさいよ」


「ほほほ、そうですわね。それじゃあスクール水着を着ましてっと」


「おい魔王、なんでファンタジーな世界の住人だったお前がそんな衣装を持っているんだ」


「我が知るか。製作者の趣味じゃろ。それよりもいいのか。我がスクール水着を着ても、後ろ半分はタケシの体じゃからそのままでは尻が丸見えになってしまうぞ」


 それもそうだ。俺は俺で学校指定の水着を着ないと……


「なんだか動きがちぐはぐね」

「スクール水着を着ているはずなのに、男子が海パンをはいているような動きをしているわ」

「大きなおっぱいがたゆんたゆん揺れているのに、ちっとも立体感がないわ」

「あなた誰? 見かけない顔だけれど」


「あはは。急いでいるのでこれで失礼させてもらうわ」


「あら、あなた? その後ろ姿は過激すぎるんじゃない? まるで男子の海パンよ」

「学校指定のスクール水着をカスタムするにしてもやりすぎなんじゃない?」

「そこまで改造するなんて。それに物理の補習……あなた相当の問題児ね」

「でも、あなたいいお尻してるわね。女子のお尻マイスターのわたしだけれどあなたみたいなセクシーなお尻は見たことないわ」


……


「遅い! タケシ君いったいなにをしているんだ。ミナ君、盗撮とかされてないだろうね。いまごろタケシ君は戦利品を堪能しているかもしれないぞ」


「佐藤先生、タケシさんはそんなことをする人ではないと思います」


「いいや、ミナ君。男というものをまるでわかっていない。あんなクールぶってるタケシ君だって、一皮むけばけだものなんだから」


「誰がけだものですか、佐藤先生。遅れたことは謝りますから、早く物理の補習を始めてください」


 魔王に騙されて女子生徒が侵入した男子更衣室から逃げ出した俺は、俺の前面に張り付けた魔王を一皮むいて佐藤先生に謝罪するのだった。

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