第6話クール系ミナ
「おい、タケシ。物理の赤点者に補修を行うことになった。お前も手伝うんだ」
「なんで俺が、佐藤先生。俺は物理では赤点は取ってないぞ」
「それは、物理の赤点を取った人間がミナ君だからだ」
「さ、佐藤先生。ミナが赤点を取ったらなんで俺が補習を手伝わなければならないんですか?」
「それは、地理や世界史の試験でタケシとミナ君が怪しげな通信をしているからだよ」
「ぐっ」
ミナと言うのは瞬間記憶能力者だ。教科書を一度見たらすべて覚えられるらしい。なんでも、一度見たものは画像として目の前に出せるそうだ。というわけで、社会なんて暗記系科目はすこぶる得意なのだ。試験中ではありもしない教科書をパラパラめくっては書き写している。
が、理数系となるとてんで駄目なのだ。なので理数系は得意なのだが暗記系がさっぱりな俺と利害が一致して、試験では回答を教えあうよう計画したのだが……
まずモールス信号を使ったのだが、佐藤先生にあえなくばれた。俺とミナがモールス信号をトンツーやっていたら、佐藤先生が・・・ --- ・・・なんてSOS信号を教卓を叩いて発信しやがった。
ならばと俺とミナも意地になって、薩摩弁やアメリカ先住民のナバホ族の言葉を使ったり、アルファベットをAをCにすると言った三文字ずつずらすなんて方法を駆使したが、たいてい試験が始まって十分もすると解読されて、その暗号で『いいかげんにしなさい』なんて発信されるのだ。
その十分のおかげで、俺は暗記系、ミナは理数系の赤点を免れていたのだが……今回の物理ではうまくいかなかった。そういえば、佐藤先生なんだかやたらはりきって補習の準備をしていたな。
ひょっとしたら、いままでも赤点をぎりぎり回避できる程度に俺たちのカンニングを見逃していて、今回は面白い補習のやり方をしたくなったから厳しい処置を発動したのでは……
「すいません、タケシさん。わたくしがいたらないばかりにこのようなことになってしまって」
「いや、いいんだよミナ。それより佐藤先生、補習って何をするんだよ」
「それはだな、タケシにミナ君。二重の虹を作ってもらう」
「二重の虹ですか、佐藤先生。そんなものができるんですか?」
「できるともタケシ。虹と言うのは光が空気中の水滴で屈折するからできるんだが……塩水で水滴を作ると屈折率が変わるのでな。真水と塩水、二種類をシャワーホースで霧状にまき散らして太陽を背にすると二重の虹ができるのだ」
「それが補習なんですか、佐藤先生」
「なんなら、光学の演習問題を百ほどやってもらうものでもいいんだが……」
「ひっ」
ミナがおびえて俺の制服の袖をつかんでくる。ふう、どうせ佐藤先生がネットの動画に影響されて生徒である俺たちの労力を使って実際にやってみようとしてるんだろう。
「わかりましたよ、佐藤先生」
「わかればよろしい、タケシ。それでは、準備は整っているからプールに行ってきてくれたまえ。先生は後から行くとしよう」
……
「タケシよ、虹と言うのは光の屈折とやらでできるのか」
「そうだ、魔王。断じて人間が橋にするものじゃないぞ」
「タケシさん、それ、何ですか?」
「え、ああこれね。俺が作ったAIでね。ゲームの魔王風のキャラで会話できるようになってるんだ」
「そんなものを作ったんですか、タケシさん。わたくしにも会話をさせてもらってよろしいでしょうか?」
「ああ、いいけど」
「ええと、魔王さんでよろしいんですか?」
「よいぞ、おぬし、ミナと言うのか」
「は、はい」
「物理は嫌いか、ミナとやら」
「はあ、計算となるとてんでできなくて……歴史なら得意なんですが……」
「では、この世界で光学がどのように発展したか我に申してみよ」
「ええと、反射や散乱については古代ギリシア時代にユークリッドが研究してまして……」
「ふむふむ」
「中世イスラムではレンズや鏡、凹面鏡の反射や、ガラス球の屈折が研究されています。おもに天文学の発展と伴ったものですね。やはりお空のお星さまを見ようとすると必然的の光学の研究になりますから」
「なるほどのう」
「近世ヨーロッパではニュートンがプリズムを使って白色光は異なる色の光が重なり合っているものだと証明しました」
「異なる色の光じゃと?」
「ええ、光の三原色と言いまして……青色光、緑色光、赤色光が重なると白色になるんです」
「青、緑、赤じゃと! タケシ! 我の配下の三本柱であるブルーゴーレム、グリーンゴーレム、レッドゴーレムと同じ三色じゃぞ!」
「ああそうだよ。グラフィックを流用してコンパチキャラを作るのはゲームじゃよくあるんだ」
「そんなことが……タケシ! はよう二重の虹の実験をするのじゃ」
「あの魔王さん。ここから光の波動説と粒子説が議論されるんですが……」
「そんなのはあとじゃ、ミナとやら。はよう実験をするぞ。なにごとも実践じゃ。せっかく三次元の世界にいるのじゃからな」
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