第3話幼なじみヨウコ

「もう、タケちゃん。遅刻しちゃうよ。また寝坊して。どうせ夜更かししてゲームばっかしやってたんでしょ。それもドット絵とか言う古臭いやつ」


 黙れヨウコ。二次元美少年逆ハーレムのスマホゲームのガチャにお小遣いをつぎこんでレアが出ないだのなんだと騒いでいるお前に言われたくない。


 幼なじみだというから、せっかくこの俺がレトロゲームのすばらしさを布教しているのにちっとも理解しようとしない。そのくせ、こうして毎朝起こしに来るんだ。確かに俺がたびたび夜更かししてゲームを続けた結果寝坊することがよくあることは認めるが、今朝はそうではない。


 二次元世界の魔王に三次元が何であるかを教えていたのだ。なにせ、魔王は三次元世界に干渉できないときてる。本を読むのもネットで検索するのも俺の手を借りないといけないのだ。


 引力が距離の二乗に反比例する逆二乗速は、世界が三次元だから成り立つのかと興奮していたな。惑星の公転軌道が楕円軌道を取る理由が、太陽との距離の二乗に反比例する引力が働いているからだとニュートンに教えられたケプラーもあんな気持ちだったのかね。


「あれ、タケちゃん。スマホの待ち受け画面がかわいいアニメの女の子になってるじゃない。ほうほう、魔王娘ですか。とうとうタケちゃんもこっちの世界に足を踏み入れたんだね。古臭いレトロゲーなんかよりもずっと今時じゃん」


「いやこれは……」


「わ、動いてる。しゃべってる。すごい! いままでドット絵のピコピコゲームばっかりだったタケちゃんがどういう心境の変化なの? だいじょうぶ? お母さんのクレジットカードからごっそり投げ銭してない?」


 ヨウコは魔王をVtuberか何かと思っているらしい。昨夜何だかんだで魔王を折りたたんでスマホの画面に顔だけ張り付けたことがこうなったみたいだ。まあ、ゲームの魔王が二次元のままこの三次元世界に現れたというよりかは現実的だろう。


「違う。それはAIだ。俺が作った。会話も音声でできる。ドラクエ的な世界観の魔王がスマホアプリの人工知能になったという設定だ」


「なんじゃそれは、タケシ。われはそんなAIなんてものではないぞ」


「いいから俺以外の人間に対してはそう振るまえ。でないと、この三次元世界のことを教えてやらないぞ。三次元ってのはすごいぞ。魔王、お前は物質の最小単位のことを知っているか? 光速が不変と仮定すると、時間と空間が同一になると導き出せると思うとわくわくしないか?」


「なんじゃその魅力的なワードは。くそっ、おぬしの言う通りにすれば良いのじゃろ」


「すごいね、タケちゃん。その魔王ちゃん本当に知能があるみたい」


「ああ、そうだろう。俺の特製だからな」


 知能かあ。この魔王、俺がプレイしたゲームのキャラなんだよな。ってことは、誰かがプログラムしたってことか。となると、しょせん作り物なのか? いやいや、最近の人工知能は、プログラムした本人にも何をしているのかわからない代物になっているらしいし……


「おいタケシ。こうして折りたたまれているのも窮屈じゃ。我を全身にせえ。昨夜タケシはさんざん我の体をもてあそんだではないか」


「やだ、タケちゃん。自作のAIでお楽しみとか、レベル高すぎじゃない?」


「変な想像をするな、ヨウコ。俺はAIでそんなことはしていない」


 ただ、三次元に現れた二次元のフラット魔王がどんなものか心ゆくまで調べ上げただけだ。


「じゃあ、魔王、全身にするぞ」


 俺はそう言って、折りたたまれた魔王を展開して全身にして、スマホの画面サイズに縮小する。ヨウコには俺がスマホの画面をタップしたようにしか見えていないはずだ。


「わ、魔王ちゃんかーわいい。よろしくね、あたしヨウコ。タケちゃんの幼なじみなんだ。毎朝タケちゃんを起こしにきてるんだよ」


「ほうほう。ヨウコとやら、『ゆうべはお楽しみでしたねえ』なんて言ったりするのか」


「やだ、魔王ちゃん。そんなエッチなおじさんみたいなこと言っちゃだめだよ。タケちゃん、どんなプログラムしたの?」


 黙れヨウコ。そんなドラクエファンなら常識なネタもわからないお前がエッチなおじさんとか言うな。エッチなおじさんだと非難するのなら、容量がかつかつでタイトルロゴですらただの文字列にしなければいけなかった中、パフパフを詰め込んだという逸話を知ってからにしろ。


「あ、タケちゃん。早くしないと遅刻しちゃうよ。ほら、早く着替えて。まったくもう、タケちゃんったらわたしがついていないとほんとダメなんだから。タケちゃんはいけない男の子ですねー、魔王ちゃん」


「そうだとも、ヨウコ。タケシは我一人を倒すのに、戦士、僧侶、魔法使いとの四人がかりで多勢に無勢をするような卑劣な人間なんじゃぞ」


「それはましな方なんじゃない、魔王ちゃん。最近では自分は何もせずに後ろにいて、戦闘はほかの女の子に任せっぱなしの男の子ばっかりなんだよ」


「なんと! そんな有様になっているのか。世も末じゃのう」

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