第8粒「後ろ姿の正面」

 皆さんは、街中を歩いていて前を歩く人の姿が気に入って、からも見てみたいと思ったことはありますか?


 ある?


 ない?


 皆さんがどちらを思うにしても、私はある体験をして以来、どんなに正面が気になったとしても後ろ姿を眺めるだけで満足することにしています。




「ね?あの人カッコ良くない?」


「後ろ姿だけじゃわかんなくね?」


 その時、私は仲のいい友達と二人で映画を観た帰りに、前を歩いていたの後ろ姿にああだこうだ言っていました。

 もちろん、その男性には聞こえないボリュームで話していました。


 その男性と私達は、彼此かれこれ10分ほど同じ通りを歩いていたのですが、ついに友達が我慢できずにと言い出しました。


「いやいや、急に追い抜いたら気持ち悪いって。」


「大丈夫、あのにダッシュで行って、中から立ち読みしてるフリしてチラッと見るだけだから。」


 そう言うと友達は止める私をよそにコンビニに走って行ってしまいました。

 その道は一本道だったので、友達の男性はコンビニの前を通り過ぎました。


「で、どうだった?」


 私は、友達を止めてはいたものの本当はすごく気になっていたので、コンビニに着くとすぐに友達にを訪ねました。

 しかし、なぜか友達は青ざめた顔をしたまま、何度訪ねてもはぐらかすだけで話してくれませんでした。

 それから数分ほどコンビニでしたあとで外に出たとき、友達はことを確認してから声を震わせて私にこう言いました。


「あの人、…」


 私はそれを聞いて、最初は重い視覚障害の人だったのかと思ったのですが、視覚障害の人をわざわざと言う必要もなく、そもそも、その男性はずっと盲導犬も杖もなかったのに一切の迷いもなく歩いていたので、何かおかしいと感じた私は、友達に詳しい話を聞こうとしましたが、その友達はそれ以上何も言いませんでした。


 その時、友達が見た男性の顔がどうなっていたのか、なぜコンビニの中から外を通り過ぎる人のとわかったのか、それはわかりませんが、その時の友達の怯え方はので、恐らくその男性に何かがあり、友達はを見てしまったのだと思います。


 を見てしまった友達はそれ以来、知らない人とすれ違うときは顔を伏せるようになりました。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る