第6粒「セミの声」

しずかさやいわにしみせみこえ


 松尾芭蕉の句で詠まれているように、セミの鳴き声は風流のようにわれているが、私は数年前にをしてからが大嫌いになった。




「ミーンミンミンミンミー……ミーンミンミンミンミー……ミーンミンミンミン……」


(もー、うるさいなあ…)


 在宅勤務中の私の耳に今日もまたが聞こえてきた。

 それは1週間ほど前から始まり、その声の正体は私の住むアパートの裏にある保育園の園児達がを真似する遊びをしている声だった。

 私の部屋は角部屋で、窓を開けるとちょうど保育園の庭園が見える位置にあったため、園児達の遊ぶ声がよく聞こえていた。


 園児達は鳴き声を真似しているつもりなのだろうが、私には単にと叫んでいるだけのように思えた。

 最初は私も気にしていなかったのだが、ここ数日、その声の1つがやたらと大きくなり、まるで窓の向こうので聞こえているような錯覚まで感じていた。


「ミーンミンミンミンミー!ミーンミンミンミンミー!ミーンミンミンミンミー!」


 その声はさらに大きくなり、さらに近くで聞こえているような気がした。


(ダメだ…少しだけ注意しよう。)


 子供好きな私もここ数日のに我慢ができなくなり、少し静かにしてもらおうと窓を開けた。


「ミーンミンミンミンミー!ミーンミンミンミンミー!ミーンミンミンミンミー!」


「ひっ!」


 を見た私は直ぐに窓とカーテンを閉めた。


 声の主は明らかに子供ではなく、生きている人間ではなかった。

 声の主は窓の向こうで手足をと下げた状態で私の部屋の方を向き


 私は得体の知れないものを見た恐怖に頭が混乱しながらも、この場所にアパートが建つ前のを思い出した。


 昔、この場所には神社があり、夏になると毎年のようにその神社の神木でが起きていたらしい。

 そして、その神木で首を吊った死体が発見されるとき、必ず死体にらしい。



 この1件があり、私はすぐにそのアパートから引っ越したが、今でもそのアパートは建っていて、私の使っていた部屋もたまに人が入っているらしく、窓際に洗濯物が干してあるのを見ることがある。

 ただ、人の入れ替わりが激しいらしく、もしかしたら私以外にも声の主の姿を見てしまった人がいるのかも知れない。


 不幸中の幸いか、私は声の主のは見ていないが、もしを見てしまっていたらこうして体験談として話せていたかどうかもわからない。





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