第4粒「ナンパ」
その日、俺は友達と2人で関東にある海の町にナンパに来ていた。
「おっ?あの子とかどうだ?見た感じ可愛いっぽいぞ。」
「おーおー、良いな。取り敢えず1人目はあの子で決まりだな。」
車を走らせながら手頃な女の子を探していると、まだ顔も見てもいないのに、後ろ姿が可愛いからと、今日ナンパする予定の2人のうちの1人が決定し、踏切で立っているその子の横に車を付けた。
「ねえ彼女、1人でなにしてんの?俺たち東京から遊びに来てんだけど、良かったら一緒に遊ばない?」
「………」
助手席に座っていた俺が窓から声を掛けるとその子は露骨に嫌そうな顔をした。
(あちゃー…こりゃ堅物かな?)
その子は想像通りの可愛い子だったが、見た感じ真面目で堅物という雰囲気だった。
「おい、もっと積極的にいけって。」
運転席にいる友達に促され、再びナンパを試みることにした。
「ねえキミ地元?さっきも言ったけど俺たち東京から来てて、この辺のことあんま知らないんだよね。ご馳走するからさ、どっかいい店知らない?案内してよ。」
「………」
カンカンカンカン…
「ちょっとちょっと、黙ってないで何とか言っ!!!お、おい!!!」
電車が来たと思ったらその子は黙ったまま踏切から線路に飛び出した。
次の瞬間、ドンという大きな音がして彼女は電車に跳ねられた。
そのあまりにも突然の事態に俺も友達も理解が追い付かずに唖然としていた。
どれだけそうしていたかわからないが、少し経ってから俺も友達も車を飛び出して辺りを確認した。
そこには跳ねられたハズのあの子は愚か、踏切すら無かった。
意味がわからない状況に気味が悪くなった俺たちはこの日はそのまま帰ることにした。
後日、またその町に行ったときに知り合ったそこの地元出身の海の家の店員によると、昔、その辺りには小さな踏切があったが、当初はその踏切には安全バーがなく、踏切の存在が地元住民でもわかりずらいほどで、危険な踏切として有名だったらしい。
そして、その踏切に安全バーが取り付けられた理由が、俺たちみたいなナンパ男に声を掛けられて、逃げ出したときに運悪く電車に跳ねられた女の子がいたから、というものだった。
その事故が原因で安全バーを付けたものの、年々、沿線の利用者が減り、何年も前に線路そのものが撤去されたのがその場所らしい。
ただ、俺たちが見た踏切は確かに安全バーがあり、尚且つ踏切に安全バーが付けられたきっかけの事故から既に20年近く経っているにも関わらず、俺たちの見た女の子は今風の格好をしていた。
あの時、俺たちが見た女の子は、昔そこで跳ねられた女の子の霊なのか、それとも全く別の何かなのか、果たしてどっちなのかはわからない。
ただ、その1件以来、俺も友達もナンパは海ですることにしている。
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