第2話 お迎え
「なぁ、本当に良かったのか?」
式の後、会場からこっそり抜け出し煙草を吸っていると、旧友が声をかけてきた。
「なぁに、どうせまた会えるんだ。別れの挨拶なんて必要ないさ。」
「そうか……強いんだな。お前は」
その後、彼としばらく話した。
出会いから、ご飯を初めて食べた時不味さのあまり気を失いかけた事。…今は上手になってきたかな 他にも文字通り命を削ってピアノを弾いていた事。それでも入賞できなくて、何時間も泣いた後糸が切れたように寝込んでしまった事。
三十分ほど話していたところ、誰かが気付いたのか、旧友を呼ぶ声が聞こえた。
「何かあったら、連絡してくれ。お前の力になりたいんだ。」
そう言って、旧友は戻っていった。
「なぁ、■■■を見なかったか? 会場内のどこにもいないんだ。」
「いや、俺も知らないな。もしかして帰っちまったんじゃないか? ほら、あいつの会社、給料は良いけど忙しさは半端じゃねぇだろ?」
「マジかよ…」
終電に揺られて家に帰る。
義父さんと義母さんに挨拶に行った時くらいかな。
彼女の地元、やっぱり遠いなぁ。
―――翌日。
午前九時。いつもの番号に電話を掛ける。
固定電話は壊れているらしいから、こちらの方しか使えない。
「もしもし…」
いつものか細い声が聞こえる。
「もしもし、
「うん、わかった。なるべく早く帰ってきてね。この子、いつもあなたが帰ってくるの遅いって、怒ってるの。」
「ははは、そりゃまずいな。よし、今日こそは定時で終わらせて帰るぞー!」
電話の発信履歴を復元した解析班の男は呟いた。
「何だこれ… 先輩、この携帯バグッてますよ。」
「ん? ああ、死ぬ前の電話にはよくあることさ。そういう死期が近い奴には「お誘い」のような感じで繫がっちまうんだな。 他にもごくたま~に、「向こう」からかかってくることがあるんだが、絶対に出るなよ。近いうちに連れてかれるからな。」
「先輩もそういう体験が…?」
「まぁな。解剖班のやつら程じゃないが、こういうのに触れるだけでも「お誘い」が来るんだ。お前にもそのうち来るかもな」
「怖い事言わないで下さいよ…」
その携帯の発信履歴には、殆どが彼の会社の上司からだったが、最後の一つだけ文字化けしており読み取れなかった。
ただ一つ、わかったことはその番号が、「090」から始まっておらず、全て「4」だったということだけだった。
ただ、それだけ 静謐の楽団 @Seihitsu2019
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ただ、それだけの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます