第6話、魔物使いの訓練

「あっ、ズルい!」


「ジャルク王女様もぜひ」


「コホン、是非にというのを無下に断れませんわね」


理知的であったのはそこまででした。

「や、柔らかいです」とか「モフりー」とか「幸せ」とか聞こえてきます。

心なしか三頭のサイレントウルフがジト目で見ているように感じます。


「これでは訓練にならんのう。では先にタカの訓練を済ませるか。

シーリア、ピー助を呼べ。

ジローあとは任せる」


ピー助を腕にとまらせて挨拶します。


「ピー助です。よろしくお願いいたします」


「ジローです。

ジョセフ先生には本当にお世話になったんです。

このような機会を与えていただき、僕の方こそ感謝しています。

これは僕のパートナーでゴーストファルコンのオボロです」


「ゴースト…幽霊?」


「ゴーストと言っても幽霊じゃありませんよ。

消えたと思わせるような移動速度からついた名です。

最初に空中から急降下する狩りをお見せします。

空中でハンギングして獲物を探し、見つけると急降下して襲い掛かります。

急降下の速度は時速400kmに達します。

よく見ておくんだぞピー助」


「ハンギングって何ですか?」


「ああ、説明が必要だよね。

鳥が空中で制止するには二つの方法があるんだ。

一つは空中で羽ばたいて制止する方法で、これはホバリングと呼ばれているんだ。

もう一つは風上に向かって翼を広げてタコのように制止する方法で、こちらをハンギングという。

ハンギングの時は尾羽まで全開にして小刻みに調節して静止状態を保つんだ。

じゃあ、行くよ。

オボロ、ハンギングからの狩りを見せてくれ」


オボロはジローさんの腕から飛び立ち、一気に30mほどまで飛び上がるとそのまま翼を広げて制止しました。


「この狩りを行うタカは非常に目がいいんだ」


ピー助もじっと見つめています。


と、オボロが一気に急降下し、地上すれすれで羽を広げ爪を立てます。

次の瞬間にはこちらに向かって飛んできました。爪には子ウサギでしょうか獲物をぶらさげています。


「ピー助、見ていたかな?君に同じことができるかい」


ピー助は私を見て、行っていいか聞きます。


「やってみて」


今度はピー助が飛び上がり、さっきと同じくらいの高さで制止します。

すぐに急降下しますが少し離れた場所なのか、斜めに急降下して地面をかすめてこちらに戻ってきます。


「驚いたよ、一発で真似して見せたのもそうだけど、急降下がオボロよりも早い。

体重もあるんだろうけど、空気の抵抗がすくないんだ。ヤリのようだったよ」


同じような獲物をぶら下げてきました。ピー助えらい。


「じゃあ、次は飛んでいる鳥を狩るやりかただね。

カラスなんかが他の大型の鳥を追い払うときは、後ろの下側から接近してクチバシで尾羽を狙うんだけど、タカが小鳥を狩るときは後ろの上側から爪で一気に鷲掴みにするんだ。

オボロ、あの鳥を捕まえてきてくれるかな」


オボロは一旦見当違いの方向に飛び立ち、小鳥の斜め後方に位置すると一気に襲い掛かります。

今度も、ピー助は同じように小鳥を捕まえてきました。


「ブルーファルコンって初めて見たけど、頭がいいんだね。さっきもそうだったけど、太陽との位置関係を理解してるよね。

自分の影を相手に認識させないように飛んでる。100点満点だね」


「ありがとうございます。ピー助を褒めてもらうと自分のことみたいに嬉しいです」


そのあとで数回狩りをさせて昼食にします。


「チョロリ」


いつも通り、チョロリが火をおこします。


「「なんだってぇ!」」同行してくれた二人が声をあげます。


「ガ、ガルド様…、これは龍…ですか?」


「にしか見えねえよな、やっぱり。

新種かも知れねえが、龍に間違いないだろうよ。他にブレスを使う魔物なんかいねえし」


「ブルーファルコンに、あれはフォレストキャットですよね。それと龍を従魔にした新人ですか。驚きました」


「龍なんてどうやって指導されるおつもりですか…」


「そんなもん、わかるわけねえだろうが。んまあ、なるようになるだろうよ。

それよりも、リア、ピー助の頭に手を置いて『今、学んだことを糧に、お前の成長を見せろ』と念じてみろ。

いまくいけば成長がみられるだろうよ」


「ピーちゃん、今教えてもらったこと、覚えたよね。成長した姿を見せてくれる」


すると、ピー助のからだが少し膨らみ体色が空色に変化していきます。


「ピーちゃん、綺麗!ありがとう」


ピー助も嬉しそうです。


「これがブルーファルコンの成体ですか、本当にきれいだ…」


ポン!なんだか関係のない方向から音がしました。


「「キャッ」」王女様の小さな悲鳴と…


「えっ、ミーミー…」


ミーミーが丸くなって毛玉のようになっていました。

ミーミーと自慢げに鳴いています。

すごい、モフモフがモフモフモフモフになった。これはムーラン様です。


ミーミーの元に行こうとすると、チョロリがムンッって感じで力んでます。


「チョ、チョロリ…どうしたの?」


するとチョロリは浮き上がりました。


「えっ?」


私の肩のところまで上昇して、首に巻き付いてグッタリしています。


「チョロリ、どうしちゃったの!」


「ああ、偶にあるんだよ。

一匹の従魔が成長すると、それに触発されて他の従魔も成長しちまうんだ。

だがなぁ…」


「フォレストキャットは、成長する必要がなかったのでとりあえず今の環境に順応したってところですかね」


「ああ、おれもそう思う。だけどよ、鳥の訓練に触発されて龍が飛ぶのかよ!

しかも、こんだけグッタリしてるってことは、ちょっと無理しちゃいましたって感じか!」


「ちょ、ちょっと待て、チョロリの背中にヒビが…」


私からは見えません。


「チョ、チョロリ、どうかしたの?」


首に巻き付いたチョロリから、ペリペリペリッと何かを剥がすような音が聞こえてきます。


「チョ、チョロリー!」


「あっ、脱皮だこれ…」


ピュルッとひと鳴きして、チョロリが私の肩から浮かび上がります。

「どう、見て」と言わんばかりに頬ずりしてきます。

体色は鮮やかな黄緑色に変わっていました。


「エヘッ、きれいだよチョロリ…ちょっと待って!

ミーミー、無茶しないで~!」


ミーミーは充血したような赤い毛玉に変わっていくところでした。



「まったく、信じられないことばかり起こりましたね」


「ああ、ミーミーのは冗談にしか思えんがな。

だいたい、ウルフ系とネコ系では狩りの方法が違うもんだ。

セイレーンへの指導を見て、同じようにやってのけるし、ジャガーを真似た狩りでは、見ていた我々が見失うほどの隠形を見せた。

だいたい、空中を駆け上がるってのは何なんだ。そっからの急降下ってのは、常識じゃ考えらんねえだろ。

ありゃあ、どうみても他の従魔へのけん制だよな」


「あの毛玉自体も、自分の意志で変形してますよね。解除も自在だったし」


「成長もしませんでしたね。今の自分には必要ないって感じで」


「ところで、この龍の皮は本当に頂いてもよろしいんでしょうか。

市場に出せばとんでもない値がつきますよ」


「シーリアが良いと言ってんだ、隊の研究材料にしておけ。

王への貢ぎ物にしてもいいぞ。

ひょっとすると、不老不死のクスリになるかもしれん」


「それ、ありそうですよね」


「王様へは全部報告しますけどね。

でも、へこみましたよ。我々の従魔だって超級と評価される能力を持っていますよ。

それでも特にミーミーには圧倒的な力の差を見せつけられました。

いい目標をいただきましたよ」


「セイレーンも、兄弟とは明らかに力の差がありましたね。

よく訓練されていますし、成長も効果的でした。あれなら、宮廷魔物使いとしても即戦力になれますよ」


「シーリーンはシーリアの教育係として同行するだけだ」


「我々に建前は不要です。ただ、あれだけの容姿で、しかもジョセフ様の娘となれば、貴族からのアプローチが絶えなさそうですが」


「まあ、我々はこのまま二年間旅に出る。すべてはそれからだ」


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