第7話、魔物使いとイノシン狩り

翌朝早く、王様がやってきました。


「こんなに早く如何なされましたか?」


「また、何も言わずに出発されると困るのでな」


「いや、王に挨拶もせずに出立したなど…、記憶にございませんな」


「忘れたふりかよ。まあいい。

シーリーンよ、これを渡しておく」


王様は、お姉ちゃんにずっしりとした袋を渡します。


「これ、は?」


「輿入れの支度金だ」


「…こっ…輿入れ」


「冗談だ、お前たち二人は二年間の修行の後、宮廷魔物使いとなる。

修行自体、国のためだ。二人分の給金と思ってくれ」


「いやいや、王のその言い回しの時は、半分冗談でしたね。

半分は本気だと」


「俺も妃を亡くして久しい。ジョセフの娘であればどこからも文句を言われぬであろう。

だが、シーリーンは美しくそして若い。二年の間に恋心の一つや二つ芽生えても不思議はない。

縛りたくはないが、気に留めておいて欲しいというのが本音だ。

お前の企みに乗ってやったのだ、これで満足であろう」


「いえ、企みなど。わしは、ジョセフと王の、そういう会話を聞いていた覚えがあっただけですわい」


お、お姉ちゃん真っ赤だけど…大丈夫?


「この話はここまでだ。」


王様は、セイレーンの横にしゃがみこんで撫でまわします。


「おお、セイレーンよ俺を覚えておったようだな。兄弟たちと違ってお前は優秀らしいな。

シーリーンを頼んだぞ」


次にミーミーの横に移動してしゃがみこみます。


「ミーミーよ、今の王国で最強のパートナーだと聞いたぞ。

いつかこの国に危機が訪れた時には、お前のチカラが必要だ。

協力してほしい」


言葉の重みを理解したのか、ミーと一声鳴きました。


「ブルーファルコンと龍はいないのか?」


「あちらに」と空を指さして名前を呼びました。


「ピー助。その美しい姿は、民の希望となるだろう。期待しているぞ」


ピーと応えます。


「チョロリだな、よもや龍族と親交が持てるとは思わなんだ。

可能であれば、この国の守り神となってほしい。

リア、二年後成長したお前との再開を楽しみにしているぞ。頑張ってくれ」


ピュリッっと鳴いて力こぶを作るような仕草を見せます。


二か月前には、家族と呼べるのはこの三匹だけでした。

それが、お姉ちゃんができて、先生もできたし、王様からも直接声をかけていただけるなんて夢みたいです。


王様はお姉ちゃんの耳元にも、何か囁きました。




「どこに向かうんですか?」


お姉ちゃんはセイレーンに、先生はニコンに乗って、私はミーミーの上です。


「最初は南の洞窟じゃ。

毒虫が多いでな、対処法を学んでもらい、できれば耐性をつけてもらいたい」


「ど、毒ですか」


「大丈夫じゃ、毒消しは大量に仕入れてある。

マヒ用に痺れ用に食中毒用、塗るタイプと服用するタイプもあるし、座薬もあるぞ」


「ざ、座薬は遠慮したいです」


「ざやくって?」


「お、お尻の穴から入れるお薬よ」


「お姉ちゃん、やったことあるの?」


「き、聞かないで!」


「しかしのう、さっきからピー助達は何やっとるんじゃろうか」


「時々急降下してるね。そのあと、パーンとか音もするけど」


「近いときは、ズズーンって、何か倒れるような音が聞こえるときもあるわよ」


「チョロリも真似してるし…」


「二匹同時の時もあるし…」


答えは平原に出た時に分かりました。

どちらが先に魔物を見つけるか競争していたようです。

急降下していって、その時はイノシシ型のモンスターのお腹をヤリのように突き破っていたのです。頭から突っ込んで、突き破った時の音がパーンと響いていたのでした。


「ああ、何ということじゃ。これまでにも幾度か腹に穴を開けて死んでいる魔物を見たことがある。

魔物使いの間では、長い角を持った未知の魔物がいると噂されていたのじゃが、まさかブルーファルコンの仕業じゃったとは…」


「でも、龍かもしれないですよね」


「そうかもしれんが、まあ龍ならまだ合点がいく。だが、ピー助は鳥だぞ。

鳥が自分よりも遥かに大きな獣型の魔物を襲うなど、想像の外側じゃよ。

じゃが、あのやり方だとピー助の方にも大きな負担がありそうじゃが大丈夫じゃろうか」


「ピー助、チョロリー」二匹を呼んで調べたけど、二匹とも血の跡すらついていません。


「何か、体を覆うような特技があるのかもしれんのう…二匹とも」


「チョロリは面白がって真似してるだけみたいです。そんな感じが伝わってきます」


「ともかく、人間だけには仕掛けないように注意しといてくれ」


「ピー助、チョロリ、パーンを人間にやったらダメだからね」


ピー、ピュリーと返事が返ってきます。


最初の村に着くまで二匹の競争は続くのでした。

特に酷かったのは村が見えてきたあたりの森です。

多分、二匹の間でこんな会話があったんだと思います。


『見ろよ、チョロリ。イノシシ魔物がいっぱいいるぞ』


『うん。何匹倒すか競争だね』


『いや、それじゃあ面白くねえ。

一度の攻撃で何匹倒せるか勝負だ』


『うん、了解!』


パンパンパンパンパン!


続いて、パンパンパンパンパン!


パンパンパンパンパンパン!パンパンパンパンパンパン!


下はブヒー、ブギャーと阿鼻叫喚です。

50匹くらいでしょうか。それが一分程度で撲滅されてしまいました。

ミーミーもプルプルして、ミーと低い声でうなっています。二匹だけで楽しんでるんじゃないわよとでも言うように。


「まあ、せっかくの肉だ、後で村人に言って取りにこさせよう」


こうして村に到着しました。

村長の家に招かれたので、先生が困りごとはないか尋ねると、イノシシ型の魔物イノシンが大量発生して困っているとのことでした。

先生も困り顔で答えます。


「あー、50匹ほど来る途中で退治してきた。

死骸は放置してあるので、好きにしていいぞ。また移動中に見つけたら狩っておくからな」


「あっ、ありがとうございます。流石は宮廷魔物使いの先生ですな」


お礼だと、乾燥肉と干しキノコをいただきました。


肉を取りに行った村人は困惑します。

死骸は確かにあり、イノシンの足跡はあるのですが、獣や人の足跡がありません。

しかも、すべて腹への一撃です。どうやったんだべと口々にしますが真相が明かされることはありませんでした。


「やっぱり、人の役に立てるのは嬉しいものですね…」


「うむ、そ、そうだな。帰りに、あの村に立ち寄るのはやめよう。あの死に方を見たやつらが、どうやったのか聞いてくる。絶対にだ…」


「そうですわね…」


ご褒美の乾燥肉をもらえて、ピー助達は大満足です。


ところが、次の村でもイノシンで困っていると訴えてきました。

まあ、群れは発見できなかったが、適当に狩っておいたからと濁しておきます。


その次の村ではクマが出たと言われました。

キラーベアーという獰猛な種類だそうです。

家畜のヒツジ数頭が犠牲になっており、見過ごしておくと村人が危険だと判断した先生はピー助とチョロリ、それとセイレーンとミーミーを偵察に出すよう指示してきます。

ミーミーはストレス発散に出したみたいですけど。


「いいこと、大きな獣を見つけたら帰ってくること。決して勝手に攻撃しないこと。分かったわね」


ミー、ピー、ピュルーと返事だけはいいんです。


少ししてピー助が戻ってきました。見つけたようです。


「よし、シーリーンとヴォルフは残れ。万一こっちに来るといかんからな」


「はい」


「よし、シーリア、ユニコに乗れ、いくぞ」


200mほど走るとクマがいました。二本足で立ち上がっており、2mを優に超えています。


「せ、先生、あのクマ、フラフラしてませんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る