第5話、魔物使いとセイレーン
「一般的というと、例外もあるんですか?」
「小さい魔物専門に育てている者もおるんじゃ。
任務によっては小さい魔物が有利な場合もあるしのう。
そういう者は、群れで育てているもんじゃ。そうして、知識を受け継がせるんじゃよ」
「そんな考え方もあるんですね。勉強になります」
「それに可愛いから、王族の女性から人気なんじゃよ」
「ミーミーもピー助もチョロリも可愛い!」
「ミーミーは確かに可愛いわよね。毛も柔らかいし鳴き声も可愛いし、人気者になるわよ」
「えへ」
「確かに、女性はネコ系を好む傾向にあるもんじゃ。
ヴォルフなんぞには目もくれんわ」
「セイレーンは白いから結構人気あるわよ」
「んー、でもミーミーのほうが気持ちいい」
「ネコ系は、自分で体を綺麗にするから、手間もかからないのよね。
セイレーンなんて、放っておくとボロボロになっちゃうから…」
クーンと悲しそうな鳴き声がしました。
「ここが王都。塀も高くて大きい!」
「おっと、身分証を見えるところに…、お前たちもギルド証を首からぶら下げておくように。
不審者だと思われるとタイホされるぞ」
「わはは、ガルド様を逮捕するような不心得者はおりませぬよ。
顔は知らなくとも、一角獣だけで十分です。
お帰りなさいませガルド様」
門の警備兵から声をかけられる。
「おお、そういえば王都も久しぶりじゃなぁ。
屋敷はまだ残っておるのかのう」
「勿論でございます。
宮廷魔物使いの永世名誉顧問であられるガルド様のお屋敷がなくなる事などありえませんですぞ」
「先生って偉い人?」
「宮廷魔物使いというだけで下級貴族並みの待遇だって聞くわ。そこのトップクラスともなれば…とんでもなく偉い人よ」
お姉ちゃんと小声で話した。
「では、屋敷で着替えてから城へ向かうとするか」
「えっ、お城へあがる服など持ってきておりませんが…」
「ん、ああ、お前たちはそのままでよいぞ。じゃが、面倒なことに、わしは格式ばった格好をせんといかぬのじゃ…、まったく面倒じゃが。
ありゃ、待てよ…。そういえばジョセフの娘と孫じゃったか…」
先生は私たちの姿をジーっと見て言いました。
「家に着いたらすぐ風呂に入れ。着るものは何とかする」
「えっ?」
先生のお屋敷に着いてからが大変でした。
黒服のメイドさん数人に拘束され、お風呂に漬けられてゴシゴシと磨かれ、髪を整えてお化粧までされてしまいました。
コルセットでこれでもかとウエストを絞られ、フワフワしたドレスを着せられてしまいました。
「何とか仕上がったな。では城へ行くぞ。今日のところは従魔は置いていく」
大層な馬車に乗り込みゴトゴト…、お城の中を我が物顔で歩く先生に連れられていきます。
「お、お姉ちゃん、私…、挨拶の仕方なんて知らない…」
「わ、私だって王様の前に出たことないもの…
先生の真似をしていれば大丈夫よ、きっと」
絨毯の敷かれた広間で先生を真似て片膝をついたらクスクスと笑い声が起こりました。
「お前たちは立ってお辞儀をしていればよい。
だいたい、片膝をつくような服装ではないだろうに」
そんなことを言われても、こんな服着たことありません。
少し待っていると、王冠を被った偉そうなおじさんがやってきて、正面の椅子に座りました。
「陛下におかれましては…」
「面倒な挨拶はよい。久しいなガルドよ。
後ろの娘御も楽にしてよいぞ。」
「陛下、この二人はジョセフの娘と孫にございます」
「おお、するとどちらかがジョセフの後継者となるのじゃな」
「この後の修行にて見極めたいと存じます。
とりあえずはお目通しにと参上いたしました」
「大儀である。後程、詳しく報告をするように」
「承知いたしました」
王様が退室するまでお辞儀をしていたので、顔も見ていません。
「よし、セレモニーは終わりだ。直接会いに行くぞ」
「「えっ?」」
「詳しく報告せよと指示があったろう」
「い、今から…」
「そういう事だ」
そんなわけで、王様の前でお茶してます。
「ジョセフの次女シーリーン・アートランドにございます」
「孫になりますシーリア・アートランドにございます」
「ジョセフのしかめっ面に似ないでよかったな。
しかし、母娘には見えんな、姉妹のようだぞ」
「・・・」
「冗談だ、笑え」
「王よ、笑えると思いますかな。
シーリアは長女シーランの娘になりますので、実際には姪というやつですな」
「そうか、それで従魔は連れてこなんだのか?」
「さすがに、謁見の場に従魔は連れてきませぬよ」
「お主やジョセフは連れてきおったではないか」
「まあ、若気の至りというやつでして」
「若気の至りでダークウルフとサイレントウルフに威圧されてたまるもんかよ。
だが、セイレーンも来ておるのだろう、懐かしいものだ」
「セイレーンをご存じなんですか?」
「ああ、産んだのはジョセフのイオだが、父親はわしの従魔サンガになる。
セイレーンの名をつけたのは私だし、セイレーンの兄弟も手元におるぞ」
「王様も魔物使いなのですか?」
「剣や魔法の才に恵まれなかったのでな、ガルドとジョセフに師事して魔物使いの修行をさせてもらった。
だが、職業は王になるからな、魔物使いだと答えてしまうと面倒なことになる。
魔物使いの立場だと、ガルドの弟子になってしまうからな」
「クス、変な王様」
「馬鹿を言うな。俺はガルドほど変人ではない」
「シーリア、人前でそれを言ってはいかんぞ。
わしのように、心の中だけにしておくように」
「ガルド、首切り役人が暇を持て余して居る。
帰りに寄っていけ」
「ところで、明日から指導職をお借りしたいのだが、許可をいただきたい」
「ふん、ダメだと言っても連れて行くのであろう。
だいたい魔物使いどもは俺のいう事よりもお前の方を優先しおる。
どうなっておるのだ」
「まあ、人徳というヤツでしょうな」
「お前の口から人徳などという言葉が出るとはな。
まあいい、で、明日はどこでやるのだ。
娘たちとともに見学に行ってやろうではないか」
「ガルド様、お久しゅうございます」
「これは、ムーラン様も立派にご成人されたご様子で、お父上もさぞやお喜びのことでしょう」
「まあ、ガルド爺からお世辞を聞けるなど、父上が聞いたら目を丸くしますわ」
「ジャルク様もご健勝のようで何よりでございますな。
これなるはジョセフの次女シーリーンと孫のシーリアにございます」
先生の紹介にあわせてお辞儀をします。
王様は仕事の都合で来られなかったそうです。
私の横にはミーミーがいて、姉さんの横にはセイレーンが控えています。
そして、王女様二人の間にはセイレーンそっくりのサイレントウルフが二頭。
「そちらがセイレーンの兄弟なのでしょうか?」
「そうです。私の横がジーニー、妹のとなりがシルフィードです。
私どもも兄弟に会えると聞いてワクワクしてやってきましたの」
三頭ともしっかりと躾けられており、いきなり飛び出していくことはしません。
でも、尻尾をブンブン降って嬉しそうです。
「失礼して近くによらせていただいても…」
「もちろんですわ」
近寄ると三頭とも鼻をクーンと鳴らし匂いを確認している。
「すみません、そちらの子は…」
「フォレストキャットのミーミーと言います」
もう、ムーラン様の目はモフらせてと訴えてきます。
そう言い出せないのは、王族としての教育でしょうか。
「よろしければ、撫でてあげてください。喜びますよ」
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