第4話、魔物使いの特性
「さて、魔物使いの特性について学んでいこう。
例えば『手当て』じゃが、これは魔法使いの治療系魔法とは根本的に違うのじゃが、手当てがどういうものか理解しておるのかのう」
「はい。これは父から学んでいます。
魔力を必要とせず、良くなってほしいという思いを送り込むことで、自然治癒力の活性化を促すものです」
「うむ、さすがにジョセフが教えただけのことはあるのう。模範解答じゃよ」
ガルド先生に褒められてリーンお姉ちゃんは嬉しそうです。
「では、良くなってほしいという思いとは何じゃ。魔法とどう違うんじゃ?」
「えっ…、魔法は…、自分の思いを魔力に変換して…、えっと、相手に送ります。
魔物使いの『手当て』は…、直接触れて…、何を…送っているんでしょう?」
「きもち?」
「安心せい、この問いかけに今のところ正解はないのじゃ。
なにしろ、魔法と違って形となって現れるものがないからのう」
ほとんどの魔法は視覚で認識できます。
火の魔法は火が出ますし、治癒系であれば薄い靄のようなものが手から出ます。
でも、手当ての時には、傷の治りもゆっくりですし、目に見えるものはありません。
「質問を変えてみようかのう。
『手当て』は本当に存在するのかじゃ。実はわしらの思い込みで、本当は自然に治っているだけじゃないのかな?」
「それはありえませんわ。重傷で呼吸の荒かった従魔が、手当てと同時に楽な呼吸に変わったところは何度も経験しました。
それに、上級の魔物使いと初級者では明らかに治る速度が違います」
「それは手当ての証明にはならんじゃろうな。
わしらが何かをしたことで、従魔に変化が起きたことは確認できるがの」
「手当て…は、治療ではないと…」
「では、『手当て』は人に効果はあるかのう」
「あ、ありません。少し、怪我の治りが早くなるという人もいますが…」
「そうじゃな。従魔や慣れた動物にだけ効果の現れる『手当て』とは、いったい何か?
また、信頼関係が高くなるほどに効果の高まる『手当て』とはどういうものなのか。
手当てが、治療の手段ではないと理解できたか?」
「な、なんとなく…ですが」
「うん、手当てしてると、こっちもあったかくなってくるの」
「ほう、それは気づかなかったぞ。こっちも、温かくなってくるのか」
「では、双方向の何かが…」
「うむ、魔物は様々なものに対して敏感なのじゃ。こちらの気持ちを汲み取って応えようとする。
それがわし等の立てた仮説じゃ」
「で、では、治れと命じるのではなく、お前は強い、こんな怪我には負けないとか願ったほうが…」
「そこじゃ、実際にそのほうが治りが早いのじゃよ。
そして信頼関係が増すにつれて、応えようとする力もあがってくる。
わしらはそれを『キズナ』と名付けた」
「キズナ?」
「そうじゃ、そしてキズナが強くなれば魔物本来の力を引き出すこともできるのではないかと考えたわし等は、手当ての先に進んだ」
「手当ての先…ですか」
「人に説明する都合があってな、『強化』と名付けたのじゃが、それが宮廷魔物使いの就任要件となった」
「強化とは、いったいどのようなものなのでしょう」
「やることは簡単じゃ。お前の本当のチカラを見せてみよ、と願うのじゃよ」
「何か変化があるのですか?」
「わからん…、じゃが、姿が変化する場合もあるし、能力だけが上昇することもある。
そして何も起きない場合もあるのじゃ。
キズナの強さが足りないのか、魔物自体が変化する段階に至っていないのかは分らんのじゃ。
そして、二段階・三段階と姿を変える場合もあるし、戦闘時だけ一時的に変化することもある。
こればかりは実際にやってみないとのう」
「初めて聞きました」
「当然じゃろう。これを知っているのはわしとジョセフと宮廷魔物使い。それに一部の王族と国の幹部クラスだけじゃからのう。
それに、事故もあった。変化した魔物が、己を制御できず…、いや本来の姿に戻っただけかもしれんが、暴れだして主を殺めてしまったのじゃ」
「ころしたの?」
「そういう事じゃ。じゃから、そう簡単には…」
「…、やってみる」「やってみます」
ゴイーンと2回音がしました。
私とお姉ちゃんの頭です。
「そう簡単にやらせる訳なかろう!」
「ひどいです!そんな魅力的なニンジンを出しておいてお預けなんて!」
「そう、ミーミーの本当の強さを見たいの!」
「ミーミーが暴れた時に、抑えられる者がおらんだろう。
今はダメじゃ。2年間の修行でキズナを強くしてからじゃ。
とは言え、ここまで話した以上、お前たちは隠れてやりそうじゃからな。
『強化』の前段階である『成長』を教えてやろう」
「成長?」
「動物にしろ魔物にしろ、巣立ちをする前には一人で生きていけるように親が訓練する。
飛ぶ訓練や、獲物を狩る訓練じゃな」
「でも、飛んでるし、餌も捕ってくる」
「じゃが、効果的な方法なのかは分らんじゃろう。
宮廷魔物使いの中には、そういう手本となれるような従魔を育てている者もおるのじゃ。
じゃから、お前たちの第一歩は城に行って指導を受けることじゃ。
一か月の座学が終わったら、城に向けて出発じゃ」
それからの一か月は魔物の生態とか、人間の町で共存するための注意などを教えてもらいました。
お姉ちゃんは、ギルマスに事情を説明して辞めさせてもらいました。
「ギルド辞めちゃっていいの?」
「大丈夫よ。私にとってリアのほうが大切だから。それに、宮廷魔物使いにも興味あるし、私にも強化っていうのができるか試したいの」
「準備は整っているな」
「「はい」」
「では、出発しよう」
先生はニコンに跨り、私はミーミーに、お姉ちゃんは自分の従魔であるサイレントウルフ、セイレーンに乗っています。
サイレントウルフは体長2mのオオカミ種で、白い体です。
音もなく忍び寄るのでこの名がついたそうです。
城のある王都までは馬車で二日ほどです。
途中に村もありますが、魔物使いの旅は基本的に野宿なんだそうです。
大型の従魔がいると、厩にも置いておけず仕方ないんだと聞きました。
先生の従魔であるヴォルフ達や他の従魔は、周辺を付いてきています。
チョロリは私のカバンの中で寝ています。
野営の時はチョロリの出番です。
枯れ木を集めてくると、ソワソワしているのがわかります。
「火を」
それだけで口から火を噴きます。
最近では、小枝がなくても太い木を直接燃やせるだけの火力を噴くようになりました。
「便利だよね。普通は、燃えやすそうな小枝も集めて、苦労して火を起こしてから太い枝を燃やすのよ。
それだけで30分以上取られるわ。
火魔法使は我儘な性格が多くって、敬遠されがちなんだけどチョロリ君はいいわよね」
チョロリは褒められたことが分かったのか嬉しそうです。
「だが、龍種じゃぞ。
生態も分かっていないし、能力やどこまで成長するのかも未知数じゃ。
こんなのを強化したら、人は滅ぶんじゃないかと心配でならんよ」
「大丈夫、チョロリは私の大切な友達だから」
「そうであってほしいと心から願っちょるよ」
「ところで、姉ちゃんの連れてきた従魔はセイレーンだけなのか?」
「ええ、冒険の時はセイレーンだけですね。
小型の魔物は寿命が短いから、家に置いてくるんです。訓練しても活躍できる期間が限られちゃいますしね」
「そうじゃのう、最低でも20年以上の寿命がないとパートナーにはしない。
それが魔物使いの一般的な考えじゃからな」
「一般的というと、例外もあるんですか?」
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