第3話、魔物使いの系譜
「上級で登録しておけ」
ザワザワザワッ!
「ギ、ギルマス!」
「面知れえじゃねえか。
これだけ注目を集めてるのに、三匹とも平然としてやがる。
つまり、意識するような対象がいねえってことだ。
俺を含めてな」
「ギルマスよりも強ええってのか」
「いや、勘違いするな。殺意を見せれば警戒するだろうし、一対一なら…鳥くれえは…」
ギン!ピー助の首筋あたりの羽毛が逆立ちました。
「うぉっ!みろこの手を、冷や汗でビッチョリだよ。
これがブルーファルコンかよ。しかも成体じゃねえって、こんなの従魔にできるやつがいるもんかよ。
さっきやってみたんだが、そこのネコなんか俺が威嚇しても無視だぞ…。
龍なんざ、怖くて手出しできねえっての。下手なことして怒らせてみろ、町が滅ぶぞ…」
「さすがギルマス。賢明なご判断です」
「ああ、上級魔物使いで決定な。
それから、みんなに言っておく。この嬢ちゃんに手を出すなよ。
お前らの命だけじゃなくって、家族・親族・友人・知人にまで被害が及ぶと考えろ。いいな!」
「「「う、ういっす」」」
「あっギルマス、それからですね、私も目的を叶えることができましたので、後任が決まりましたら辞めさせていただきます。
これまでありがとうございました」
「まて!現役のお前だからみんな言うことを聞くし、ホールで騒ぐやつもいないんだ。
前みたいに婆さんや素人に替わってみろ、その瞬間に俺の手間が倍になる!」
「だって、大切な姪っ子の面倒をみないと…」
「それは、俺が何とかする!なっなっ、だから辞めるな、いや、辞めないでくれ…。
そうだ、今日はその子の服とか装備とか買いに行けばいい。
もう上がっていいぞ」
そんな事がありまして、無事冒険者および魔物登録が終わりました。
ミーミーちゃんもピー助もチョロリも、体の一部が銀色に変わっています。
普通は金色なんですが、従魔登録をやった術者よりも遥かに格上の従魔だった時に起こる現象だそうです。
町中を歩いても、それほど目立ったり警戒されることはありません。
ミーミーちゃんは獰猛な感じはなく、長毛種なのでどちらかと言うとモコモコでモフモフです。
声もミーって可愛く鳴くので、子供に気づかれると大変そうです。
「ミー」…、お腹が空いたかな、でもね、今の声を聴いた子供たちがキョロキョロしているから我慢してねと歩き続けます。
「あっと、どうしたお腹でもすいたの」
リーン姉さんが声をかけてしまいました。
「ミー」これは肯定の鳴き方です。
子供たち数名が、モフモフと敵意のない可愛い「ミー」を関連付けてしまいました。
当然、女の子です。
「モフモフしていいですか?」「なでてもいいですか?」「触っていいですか」
大丈夫かとは聞いてきません。女の子は本能で理解しちゃうんです。危険はないって。
「じゃあ、そこの串焼きを食べる間ね」とリーン姉さんが応えます。
魔物使いが少しでも滞在する町では、半生の串焼きを用意しているんだそうです。
最初三人だったのが、五人に増え十人・十五人…
子供だけではありません。お姉さんやおばさんまで混ざっています。
大人たちは串焼きを買って追加(時間延長)します。それがこの町のルールで、男はダメなんだそうです。
「普通は、人が増えてきたり時間がながくなると嫌がって逃亡するんだけど、ミーミーは平然としているわね」
「一緒に寝てるから、慣れてる」
「目がブルーなんですね、かわいいです」
人の場合、ブルーアイズというのは瞳がブルーなのだけど、ミーミーは白目の部分が水色なんです。
「ふーっ、ミーミーの人気は凄いわね。でも、安心して。ああした串焼きの店とか、買い物中の店先だけよ。
それ以外では声をかけないってルールがあるの」
「ん、安心」
「でも、イヌ系の毛質と違ってネコ系の毛は柔らかいのよね。
しかも、大型で長毛種なんて珍しいし、ミーミーはもうアイドルよ」
「私もうれしい」
「さて、これが我が家よ、買い物も終わったし、お風呂入って…」
「やい!待っていたぞ」
「?」
「こら!ガネーシャ!初対面の女の子に何てこと言うのよ!」
「初対面…、じゃない、多分」
同い年くらいの男の子。デジャブかな、かすかな記憶があります。
「勝負しろ。俺が勝ったらお前の従魔をよこせ!」
「負けたら?」
「俺の従魔をやるから、好きにしろ」
イヌが3匹、キャンキャンと男の子の足元で吠えています。
可哀想に、尻尾を後ろ足の間に隠しているのに、この子は気づいていないようです。
「ピー助、ちょっとだけ威嚇」
男の子と三匹のイヌは、恐怖でお漏らししています。
「あーあー、もう。
誰か、ガネーシャを着替えさせてあげて」頭にフリフリをつけた黒い服の人達が駆け寄ってきて、二人がかりで両手を引っ張って連れて行きました。
「あれがガネーシャ、兄さまの息子よ。リアとは従妹になるけど、まだまだ子供だから許してあげてね」
「イトコ…、子供だから許す」
「お兄様は?」
リーンお姉さまが黒い服の人に声をかけます。
「応接でお客様のお相手をされています。先代様のお知り合いだとか」
「分かりましたわ。私のお客様でもありますから取り次いでくださいな」
応接の前で、黒い服の人がノックをして告げます。
「シーリーンお嬢様がお戻りです」
「入れ」と男の人が応じます。
「失礼いたします。
お兄様ただいま戻りました。ガルド様、お待たせいたしました」
「その娘がシーランの子供か、確かにシーランの面影があるな」
「そうですわ。お兄様があの時会わせてあげていれば、こんな苦労をする事もなかったシーリアです」
「よせ、客人の前だぞ」
「まあよい、これでジョセフの血を引く者が集まった訳じゃな」
「あとは息子、ガネーシャが戻れば。おいガネーシャはどうした」
「ちょっと粗相をしまして、今着換えの最中です」リーン姉さんが応えます。
「すぐに連れてこい!」黒い服の人に指示をします。
程なくしてガネーシャが連れられてきました。
「お義姉様はよろしいんですか?」
「あれは、血を引く者ではない」
「ではジョセフの遺言を伝えようかのう。
わしはジョセフの兄弟子にあたるガルドと申す。
我ら二人は、二十年前に約束したのじゃ。
どちらかに死が訪れた時、師より与えられたすべてと、我ら二人の研鑽を次の世代に引き継ごうと。
直接の血を引く者の中から、魔物使いとしての資質が一番現れた者を選び、2年かけて教育する。
残念ながら我の子供達は死んでしまった故に、この中の一人を後継者として選抜する。
そして、その者はジョセフの退位後空位である宮廷魔物使いの第一候補となる」
「宮廷魔物使いでございますか…」
「そうじゃ。このとおり王の書付もある」
「お、恐れ多いことで…」
「すっげぇ、いきなりの城詰め!俺頑張る!」
ゴイーンとガネーシャの頭が鳴った。
「我が選別する前に、お主らからの推挙はあるか?」
「正直申し上げて、魔物使いの資質は上の妹シーランに一番現れておりました。
シーラン亡き今では、シーリーンが適任かと存じます」
「えー、俺じゃないの!」
また、ゴイーンと鳴った。
「今日まででしたら、私もそう思ったでしょう。
でも、シーリアを見た今では、シーリア一択でしょう。
手当てを使えるだけでなく、フォレストキャット・ブルーファルコンに加え、龍種をも従魔に従えておりますれば、どこに出しても恥ずかしくない逸材にございます。
ただ、空白の期間が大きく、一般教養にいささか不安を感じますので、わたくしを教育係として同行させて頂きたく、お願い申し上げます」
「やはり、フォレストキャットとブルーファルコンであったか。
それに龍種か、わしに指導できるか不安じゃぞ」
こうして一か月の基礎訓練の後、三人の修行の旅が始まるのでした。
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