第2話、魔物使いと家族

「よし、出発しようかのう。ほれ嬢ちゃんもニコンに乗って…」


「ミー!」


「私はミーミーに乗っていくから大丈夫」


「そうか、無理するなよ」


私が先導しているので、こちらのペースではあるんだけど、ニコンもピッタリ後をついてくる。

途中、一回休憩しただけで昼過ぎにはリントの町に到着した。


「では、まずギルドで冒険者登録を済ませるかのう。この時間なら空いているはずじゃで」


「うん」


冒険者ギルドってところのドアを開けて中に入る。


カウンターのお姉さんがギョッとした表情で手招きしてる。


「あの…」


「着替えとか、持っていないの?」


「はい、いつもこれだけです…」


「あぁ…、いいわ、ちょっとこっちにいらっしゃい」


「あの…」


爺ちゃんが何か言いかけましたが、お姉さんに睨まれて口を閉じます。


奥のほうの個室に連れていかれ、こう言われました。


「いいこと、身なりや髪を見れば外で生活してきたのはわかるわ。

でもね、女の子は人前でお尻を出しちゃいけないの。

これは絶対に守らなければいけないこと。

分かった?」


「う、うん…」


「でも、あなたの服は、お尻を隠すようにできていなくて、着替えも持ってない。そうね」


「う、うん」


「はぁ、私のパンツと短パンをあげるから、今ここで履いてちょうだい」


ああ、一人で生活するようになって、パンツなんて考えたこともなかったんです。

昔は、パンツを履かずに外に出ると、お母さんに怒られたな…。女の子が人前でお尻を出しちゃダメって。

そう、お母さんにも同じことを言われました。



「おかあさん…」思い出したら涙が止まらなくなりました。


「うん、つらかったんだね…」


お姉さんは私を抱きしめてくれ、私は声をあげて泣きました。ひとしきり泣いた後で言われました。


「落ち着いたようね。じゃあ、次は私の話を聞いてもらえるかしら」


ドンドンドン!「何やってんだ!カウンターに冒険者が溜まってきてんぞ!」


「うるさいです!これから重要な話をするんだから邪魔しないで!」


「そっ、そうか…」


「まったく気が利かないギルマスだこと…」


それから、お姉さんはゆっくりと、自分に言い聞かせるように話しだしました・


「私には姉…お姉ちゃんがいたの」


「お姉ちゃん?」


「そう、優しくていつも微笑んでくれたお姉ちゃん。

分からないことがあれば、何でも教えてくれたし、何より魔物使いとしての資質にあふれていたわ」


「ししつ?」


「魔物使いにとって大切なことって何だかわかるかな?」


「?」


「それはね、魔物や動物に好かれることなの。どれだけ強い魔物を従えているかなんて、大きな問題じゃないわ。

どれだけ強い絆で結ばれているか…なの」


「私…、ミーミーとピー助とチョロリとお友達」


「そうね。見ていれば分かるわ。

それでね、15年くらい前だけど、お姉ちゃんのお腹に赤ちゃんができたの」


「あかちゃん」


「そうよ、でもお父さんが反対したの。その結婚を認められなかったお姉ちゃんは家を出たわ。

突然だったから誰も行く先を知らなかったし、私は魔物使いの修行で街にいなかったの。

少しして、修行から戻って来たんだけど、探しようがなかったわ」


「ゆくえふめい…」


「そうね。それから二年くらい経ったころ、一度帰ってきたの。小さな女の子を連れて…

そのころ父は、重い病気で寝ていたの。私は冒険者で、その時も町にいなかったわ。

私にはもう一人兄がいるんだけど、お姉ちゃんを家に入らせなかったの」


「なんで?」


「父に会わせて怒り出したら、病気が悪化するんじゃないかって心配したのよ。

でも、住んでいる町は聞いておいてくれたから、私はすぐに会いに行ったわ。

ご主人は病気で亡くなっていたけど、元気そうだったわ、二人とも」


お姉さんは、少し目頭を押さえています。

悲しいことを思い出したときに、私もやります。


「それから3年おきくらいには会いに行ってたんだけどね。

お父さんが亡くなった時も行ったんだけどね。

それで、2年くらい前かな、お姉ちゃんの家に行ったんだけど、お姉ちゃんは死んでしまっていて、その子供は行方が分からなかったの」


「かわいそう…」


「可哀想なのは、その女の子よ。12才くらいで独りぼっちになって、家からも追い出されて…

私は探したわ。目印は私と同じ栗色の髪の毛と、タヌキみたいな尻尾のネコを連れていること。

自分で探すよりも、少しでも情報が集まるギルドで働くようになって、毎日聞き続けてきたのよ。今朝まで…」


そういってお姉さんは私の…栗色の髪をなでてくれました。


「やっと見つけたわシーリア…。ねえ、私を覚えてない?シーちゃん…。

ほら、ミーミーは私のことを覚えているって。私は見た瞬間に分かったわよ」


ミーミーはお姉さんに体を寄せていました。

お母さんの、いもうと…

プルっと体が震えました。私を抱き寄せるこの感触。この香り…

プルプルと震えてきます。三年分の空白を埋めるように、お母さんの顔が浮かび、お母さんに似た顔立ちのいもうと…

二人ともシーちゃんだね…、そういってお母さんは笑ったの。

シー…、リーンでいいよ、シーリーンよ。


「リーン…、シーリーン…お姉ちゃん…」


「そうよ、リア」


ワーっと、声をあげて泣きました。

紛らわしいからリーンとリアでいいわね。そう言ってくれたのはリーンお姉ちゃんでした。



「連れてきていただいてありがとうございます。シーリアは私の姪にあたります。

この子をずっと探していたんです。本当にありがとうございます。

今は手持ちがありませんので、お待ちいただくか、夕方にでもアートランド家にお越しいただければ、十分なお礼をさせていただきます」


「うん?お前さん方はジョセフの血縁者かな?」


「父をご存じなんですか?」


「そうか、シーリアもジョセフの血を引いておったとはのう。それならば手当てを使えることも合点がいくか。

わかった、わしのほうから伝えることがあるんでな、夕方屋敷にお邪魔しよう。では後程な」


お爺ちゃんはそう言ってギルドから出ていきました。



「さてと、この子たちの従魔登録をしなくっちゃね。」


「うん」


「字は書ける?」


「だいじょうぶ」


「名前なんだけど、これからはシーリア・アートランドよ」


「アートランド?」


「そう、お母さんの名前もシーラン・アートランドだったのよ。

それから、問題はこの子たちの種類ね」


「種類?」


「そう、従魔登録するときに種類を記載しないといけないの。

ねえゲンさん、私の見立てだと、この子はフォレストキャットだと思うんだけどどうかな?」


「なにぃ、フォレストキャットだぁ、何を寝言ほざいて………、にしか見えねえな。

おれも、野生の成体を一度見ただけだが、北の森の王フォレストキャットを従魔かよ。

それに、こいつはブルーファルコンだよな。

今はグレーだけどよ、成体になったら綺麗な空色になる。

羽1本が金貨10枚って超レア種だぞ。

だけどよ、問題はこのチビ助だろうな。

ドラゴンを従魔にした例は、これまでにも数件あるけどな、ランドドラゴン系しかねえんだよ。

こいつは純粋な龍属だな。

嬢ちゃん、他に何か変わったことはなかったかい」


ザワザワザワッ


「えっと、火を…その、吹きました」


ザワザワ


「ああ、ブレスだ。龍属であることは間違いねえな。

多分これから長い時間をかけて成長とともに変化していく。

金龍・銀龍・白竜・黒龍、今人間が認識しているのはこれだけだが、目撃例自体すくねえから龍種と書くしかねえよな。

だけどよ、三種とも従魔登録は初だぞ。

嬢ちゃんのレベルはどうすんだい」


「実績なしで特級はムリだな。

上級で登録しておけ」


ザワザワザワッ!



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