稀代の魔物使い

モモん

第Ⅰ章、宮廷魔物使い

第1話、ひとりぼっちの魔物使い

私には、魔法は使えませんでした。

体格も貧弱で、運動神経も人並み以下です。

少し口下手で、いつも周りの人を怒らせてしまいます。


そんな私でも心を許せる友達がいます。

ネコのミーミーちゃんです。

二年前、森で大怪我をして動けなくなっていたので家へ連れてきました。


「お爺ちゃんは、動物が怪我をすると傷口に手を当てていたわよ。

そうすると治りが早いんだって。

シーちゃんも試してみたら」


シーちゃんというのは私です。正しくはシーリアですけど、お母さんはシーちゃんと呼びます。

お母さんに言われたので、夜寝る時も一緒に寝ていました。

最初はタヌキかと思いましたが、ミーミーとなくので猫だと分かったんです。

色は白地に薄茶と濃い茶色が模様を作っています。

尻尾は茶色系が濃く、太いです。私がタヌキと思い込んだのは、この太い尻尾のせいです。


それからは、どこに行くにも、何をするにも一緒です。


半年前、お母さんが風邪をこじらせ、寝てばかりになりました。

貯えもなくなり薬代も払えず、先月のこと眠ったきり目を覚まさなくなってしまいました。

薬の借金だとか、お米の借金だとか言われ、家も家財もとられてしまい、私は無一文で放り出されました。


身寄りもなく、途方にくれましたが、少し離れた森で暮らすことに決めました。

とはいえ、運動神経も悪く、体力にも乏しい12才の女の子が生きていけるのでしょうか。

とてもムリです。でもミーミーちゃんが果物とか木の実を集めてきてくれます。

それを食べて、何とか生きていけました。


ある時、ミーミーちゃんが雛鳥を咥えてきました。


「ごめんねミーミーちゃん、私、生の鳥なんて食べられないよ」


ミーミーちゃんは首を振って羽のあたりを前足で押さえました。


「もしかして怪我してるの?」


ミーミーちゃんはそうだという感じに鳴きました。


それから二日かけて回復させます。

食事は木の実をすり潰して与えていますが、名前はピー助に決まりました。


まだ羽も生えそろっていない灰色のピー助は、私の肩や頭の上で跳ね回っています。


しばらくして、今度はトカゲと蛇の中間のような不思議な生き物を咥えてきて治せと言います。

いえ、ミーミーちゃんは何も言わないんですけどね。


こうして、一人と3匹の暮らしが始まったんです。

トカゲは緑色で、チョロリと名付けました。


冬が近くなり、果物が減ってきます。

ミーミーは木の実を多めに採ってきて、全部は食べないで蓄えておけと言います。

飛べるようになったピー助も、木の実を採ってきてくれます。


ある時、信じられないことが起こりました。

枯れ枝を集めていたチョロリでしたが、何をするのか見ていたら枯れ枝に向かって火を吹いたんです。

こうして私達の住む洞穴は、火を手に入れました。


夜は干し草の上で4人で丸まって寝ます。

ミーミーちゃんが一番暖かいので中心になっています。


冬になり、植物由来の食糧が手に入らなくなると、動物系を探さざるを得ません。

ミーミーちゃんはウサギがメインになり、ピー助は小鳥、私は木の枝でヤリを作り魚とりです。

チョロリは冬が苦手なのか、留守番です。


基本的には、木の枝に刺して丸焼きです。

丸焼きにしてからみんなでいただきます。

内臓や骨はチョロリの好物です。

尻尾と後ろ足で立ち上がり、前足で骨をつかんでバリバリいきます。



いつしか、三度目の冬と春を超えました。

多分、私も15才です。

みんな大きくなったと思います。

ミーミーちゃんは胴体だけで1mくらいあります。

ピー助は翼を広げると1mくらいです。

チョロリも全長1mくらいです。


着ていた服もボロボロになり、今は鹿の皮を干して真ん中に穴をあけて着ています。

両側を木の繊維で縛ってあるので邪魔にはなりません。

伸びてきた髪も、後ろで束ねてあります。

ノースリーブのミニワンピースってやつです。


ある時、角の生えた馬に乗ったお爺さんがやってきました。


「ほお、お前さんは魔物使いか?」


「ま…もの?」


久しぶりなのでうまく言葉が出てきません。


「なんじゃ、それだけの魔物を引き連れておるのに、魔物使いを知らんのか。

剣士や魔法使いと同じような職業じゃよ。

魔法使いは魔法を使い、魔物使いは魔物を使う。それだけの違いじゃ」


「魔物?この子たちは生き物…、ネコと、鳥と、トカゲ…」


「いやいや、こんな大きなネコはおらんよ。鳥は鷹の仲間じゃと思うがわしの知らない種じゃな。

問題はこいつじゃ。トカゲの仲間では、体長が3mにも達するオオトカゲ種があるにはあるが、こいつはドラゴン属じゃないかな」


「そんなの知らない。チョロリはトカゲなの」


「まあ、お前さんがそういうのならそれで良いじゃろう。

ところでな、リントの町に行きたいんじゃが、ちょっと迷ったようじゃ。

方角だけでも教えてくれんかのう」


「あっち」


指さして教えてあげます。


「ここから、どれくらいかかるかのう」


「馬車で半日…」


昔、お母さんと一緒に行ったことがあるから教えてあげました。


「半日か…、途中で野宿になってしまうのう。

お嬢ちゃん、今夜はここで寝かせてもらえんかのう」


「ミーミーが警戒してないから、好きにしていいよ」


「そうか、ではわしの魔物たちも紹介しておこう。

荷物を載せているのは、一角獣のニコンじゃ。

それから、ヴォルフ!リッパー!」


ミーミーちゃんの耳が、一瞬ぴくっとなりました。でもそのままゴロンとしています。


カサっと音を立てて現れたのは、イヌ?それともオオカミ?


「こうつはダークウルフのヴォルフじゃ。こいつが威嚇してるのに、嬢ちゃんのミーミーは平然としておるな…

つまり、ヴォルフなど問題にしていない、それだけの力を持っておるという事じゃ。

これまでの旅で、ヴォルフがここまで威嚇する相手なんぞおらんかった。興味深いのう。

木の上に来たのが、ミミナシフクロウのリッパーじゃ。

仲良くしてやってほしい」


「みんなおいで」


ヴォルフは警戒しながら、ニコンはトコトコと、リッパーは音もなく私の肩にとまります。

三匹にお肉を千切って食べさせてあげます。


「信じられんのう。こいつらが私以外の人間から餌を食べるとは…」


「ヴォルフ、ここに寝て…」


「ん?どうしたんじゃ」


「ちょっと捻った感じかな、大丈夫、すぐに治るよ」


ヴォルフはクーンとないて私に身を任せます。


「驚いたわい。『手当て』を使えるとはのう。誰から教わったんじゃ?」


「ううん、お爺ちゃんがこうやって動物の怪我を治してたって、お母さんから聞いた」


「聞いて真似しただけで『手当て』が使えるとは、やっぱり嬢ちゃんは魔物使いの才能がありそうじゃな」


「うーん、よく分からない…」


「で、なんでこんなところに?」


これまでのことを正直に話すと、爺ちゃんは少し考えてから言いました。


「それならば、わしと一緒に来るか。町で独り立ちできるくらいにはしてやれるぞ」


「町は怖い…ここで暮らす方がいい…」


「じゃが、従魔の証がないと狩られてしまうかもしれんぞ。

ほら、耳か尻尾に金色のマーキングがされておるじゃろ、このマーキングがあれば誰かの従魔だと分かるから狩の対象になる事はない。

特に嬢ちゃんの仲間は珍しい種類じゃからのう、誰かに目を付けられんとも限らんぞい」


「それなら、町へいく」


嫌だったけど、爺ちゃんを案内して、町に行くことになりました。

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