第52話 自分より優秀な人を雇え

 11月も中旬に入り、そろそろ真冬でも使う厚着を用意しなくてはいけなくなる程肌寒い日が増えてきた頃。

 今やすっかりおなじみとなったススムの授業が今日も始まる。




「あ、ススムさん。ススムさんの言うとおりに「利益は先延ばしにして、損失は素早く確定する」をしたら少しずつですが勝てるようになってきました」

「ほほぉ、そうか。大したもんだな。大抵の人間というのは知ってても出来ないもんだがお前は才能があるな。まぁいい。今回は「自分より優秀な人でチームを作れ」という話だ」


 ススムは語りだす。




「いいか小僧、金持ちというのは『自分より優秀な人間を雇う』ものだ。人間1人がやれることはあまりにも限られている。

 もし金持ちになりたければ自分だけのチームを作れ。チーム作りというと大掛かりに思えるかもしれんが、そう難しい事ではない。

 最初は連絡先を確保してたまに顔を見せる程度で良いがそのうちカネや手間もかけるんだな。そうやって信頼関係を築いて、いつでも頼れる関係に育て上げるのだ。

 これは果樹を育てるのと一緒だ。種を植えて水や肥料をやり、育てるのととてもよく似ている。水や肥料を定期的にやって手間をかけるところが特にそうだ。

 中には丹精込めても途中でダメになって枯れることもあるが、それでも一定数は最後まで育て切ることが出来るだろう。そうすれば木陰の下で果実を食える生活が待っている」


 ススムは進に「自分だけのチーム」を作れ、と言う。それが正しい事なのだろう、その目には迷いはなかった。


「この『自分より優秀な人間を雇う』という感覚は偉人の本……そうだな、『鉄鋼王 アンドリュー・カーネギー』の本でも読んで今からでも身に着けておけ。必ず人生で役に立つだろう。

 大多数の人間は『誰かに雇われ』こそすれ『誰かを雇う』という発想には至らない。例えば小僧、お前でも今すぐにシルバー人材センターに頼んで家を掃除してもらい料理を作り置きさせ、自分はその時間を仕事に回して効率よく生活を回す。という生き方だって出来る。

 だが常人にはそれが理解できない。『そんなの手抜きでズルい。家事は他人の手を借りずに自分の手でやらないとダメだ』等と見当違いの事を言い出すのがオチさ。バカげた話だがな」


 ススムは家事を自分でやることにこだわる者を鼻で笑っていた。


「『金持ち父さん貧乏父さん』にも載っていたように『基本的な部分を広く浅く』学ぶと良い。深い部分は税理士や会計士を雇う、あるいは相談役にする。といった『専門家を雇う』事で解決するからな。

「基本だけ」を「しっかりと」押さえるだけで十分だ。専門的な知識は要らないし、学ぶ時間も無いだろうからな」

「そうですか……では具体例としてススムさんはどうなんですか?」


 進はそこまで話を聞いた後、先生に問う。




「ふーむ、オレの事例ではどうか、と来たか。そうだな、例えば頼りにしてる税理士に毎年確定申告を依頼している。

 合法で節税できるところは全てしてもらっている。仕事の報酬はもちろん払っているが元は十分に取れているな。

 若いころはそうでもなかったがこの年になると細かい計算は難しくなるから有りがたい話だよ」


 ススムの話は続く。今度は不動産維持に関する話だ。


「それに、持っている物件のトイレが詰まったり水が漏れた際の修理を依頼する業者や、住人が退去した後にリフォームをする際の施工業者、

 さらにはいつも物件を管理してくれてる管理業者の連絡先も常に確保している。

 加えてフェイスブックで大家同士のつながりもあって物件情報や業者の情報をやり取りだってしているぞ。

 特に大家仲間は重要だな。大家業というのは他人を蹴落とす競争ではない。知り合いが多ければ多いほど有利になるぞ。昔の言葉で「持ちつ持たれつ」とは言ったものだが、それは本当の事なんだぞ」


 ススムは自分のチームについて話し、何かしらのつながりを持てと断言する。


「ただ、この『自分より優秀な人間を雇う』というのはなかなかに難しい。

 自分より優秀な人を雇ってしまったがために居場所がなくなるのでは? という恐怖に支配されて大抵の人間にはできないものさ。

 だから会社に1人はいる、目が回るほど忙しいのに仕事を抱えきって誰にも渡さないやつが出てくるのは、忙しいほど仕事があるのを周りにアピールするためなんだ。

 仕事が無くなると自分は要らない人間なのではと勘違いするものさ」


「えっと……じゃあ本物のお金持ちというのはヒマなんですか?」


 ススムの講義の中、進は先生に向かって質問をする。


「まぁそんなとこだな。本物の金持ちというのは自由な時間を確保している。それこそ『熱海へいこうかなー』とふと思ったら3時間後には実際に熱海の地を踏めるほどにはな。オレも何とか金持ちになったから50代後半の頃からこんな生活を送ってる。なぁに小僧、お前はまだ30だ。今から動けばオレと同じように早期にリタイアして悠々自適ゆうゆうじてきな生活を送ることも決して不可能ではないんだぞ?」

「そ、そういうものなんですか?」

「そういうものだ。お前はオレより学があるだろうから決して夢物語でもないし不可能な事じゃあないんだぞ? ま、今は投資を頑張ることだな」


 その日の授業はそれで終わった。




【次回予告】


ちまたでよく言われるのが、勇気と無謀の違い。


今回のススムの授業はそれに関するものだった。


第53話 「勇気と無謀の違い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る