第26話 株と不動産
7月の給料日前日。いつものように成果を出す時がやってきた。
「小僧、課題を出してもらおうか?」
「はい。まずは6万円がこれです。そして「金持ち父さん貧乏父さん」には
「まず自分に支払う事」「資産を買って負債を買わないこと」それに「会社を作って節税しろ」とも書いてありました。
ところで、「資産というのは『お前の財布にカネを入れてくれるもの』で、負債は『お前の財布からカネを奪っていくもの』だ」って前に言ったのはこの本からですよね?」
「バレたか。そうだ、この本を参考にしたんだ。課題は順調にこなせているな。良い感じだぞ」
満足げな顔をするススムに対し、進はある提案をする。
「ところでススムさん。株や不動産っていうのはどういうものなんですか? 将来やってみたいなとは思っているのですが」
「ほう。株と不動産をやりたいと来たか……「金持ち父さん貧乏父さん」を読んで思ったことなんだろ?」
「う……」
ズボシだった。進は言葉が出ない。
「なぁに、けなしてるわけじゃないぞ、むしろ悪くない選択肢だぞ。オレもそれらで大成したというか、今でも不動産から得る家賃収入で年1億は稼いでる。
言っておくが、株も不動産も極めるには一生かかる。だがやる価値はあるぞ。
ウナギ職人の間では『串打ち3年、裂き8年、焼き一生』という言葉がある。一生が勉強だ。
他にも
「
ススムは前に出ることだけを考えている若者をなだめる。
「それと、これだけは覚えとけ。お前は株や不動産に手を出したら確実に失敗する。どれだけ入念に準備をしても、だ。だがそれは必要経費と割り切れ。無論失敗の傷が浅ければ浅いほど良い。前にも言ったが、人間は人生を1度しか生きられず、2度も3度も人生を歩めないなら失敗はつきものだ。
お前は自転車に乗るのに1回も転ばなかったか? 違うだろ? 株も不動産も同じで、何度も失敗するだろう。オレが出来る事といれば転んでもすり傷をしないようヒジやヒザのプロテクターを買い与えることぐらいだ」
「そ、そうですか。ではそのヒジやヒザのプロテクターに当たるものは例えば何ですか?」
「例えば、と来たか。生意気なことを言うようになったじゃないか小僧。なぁに
ススムはフフンと笑う。そういえばはっきりと笑っているのを見たのは今回が初めてかもしれない。
「例えば、そうだな……『保有効果』と言うのは知ってるか?」
「……なんですかそれ?」
「知らないか、では教えてやろう。『保有効果』と言うのは自分が所有している物にはどんなものであろうと価値があって手放したくない。
という人間なら誰もが持つ心理現象だ。実験でも証明されている。株や不動産ではこれがマイナスの方向に働いてしまうんだ」
「マイナスの方向へ? どういうことですか?」
進の問いにススムは答える。
「例えば1000円の株を買ったとしよう。
そしたら翌日には900円に下がり、このままでは損失が広がる危険性が高いとなっても手放したくないと思ってしまう。これが保有効果だ。
「他でもない自分が選んで所有した株なんだからいつか必ず巻き返してくれるはず」と根拠のない期待を持ってしまうのだ。
それを手放すというのは「自分には株を見る目が無かった」と認めてしまう事だからな。人間というのは「自分だけは特別優れているから、その優れた自分が選んだものもすべて優れているはずだ」と思い込みたがるものだ。
その後株価は順調に下がり続けても塩漬けと言って「いつか上がるまで放置しよう」となる。素人が株をやると大抵はこうなる。既に何十万人、いや何百万人という人間が歩んだ道だ」
ススムは話を続ける。
「さらに言えば「プロスペクト理論」というのも出てくる」
「ぷ、ぷれすて……? なんですかそれ?」
「「プロスペクト理論」と言って、人間は「得られるはずだった利益が無くなる」事が「損失が拡大すること」よりも耐えられないという行動心理理論だ。
10万円の利益が0円に消し飛ぶよりも、10万円の損失が20万円に膨らむ事の方を選んでしまうものだ。マイナスは同じ値だというのにな。
これもまた下がった株を塩漬けにする理由だ。小僧、株も不動産も魔物の
1人の華麗な成功者の下には100人の敗残者、さらにその下には10000人の『再起不能者』が転がっているものだ。
軽い気持ちでやっているとあっという間に大波に飲まれて良くて敗残者、悪ければ再起不能になるぞ」
「……」
進は老人の忠告を聞いて
「そ、そうですか。では株って何なのか教えてくれませんか?」
進はススムに教えてくれと頼んだ。
【次回予告】
株や不動産をやりたいと言ってきた進。だが彼はそれをよくわかっておらず、ススムはまずは株の基本的なことから教え始めた。
第27話 「「株って何?」 「『応援チケット』だ小僧」」
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