第24話 金持ちはケチか? ブランド物を欲しがる本当の理由
6月末日をあと数日後にひかえた日。その日もやはりススムの授業が始まった。
「小僧。金持ちはケチだと思ったことはあるか?」
「い、いえ。むしろTVに出てくる金持ちは羽振りがいいと思っています」
「そうか……それは『TV用の金持ち』だな。あんなの下らんTV局のポンコツディレクターやポンコツプロデューサーが望む金持ちだ。あんなの嘘に決まってる。TVなんていう「バカ製造機」の映像ごときを真に受けるんじゃないぞ」
ススムは気を取り直して話をしだす。
「いいか小僧、金持ちはケチではない。収入はそれほどでもないが節約に振り切れている奴は別だが本当の金持ちはケチではない。ただカネに愛情を持っているからこそケチに見えるのだ。金持ちはカネを大事にするからこそ無駄遣いをしない。大好きなカネを1円単位まで『生き金』として使いたい。
だからこそ必要ないと思ったところにはびた一文払わないが、必要だと思ったら湯水のように使うものだ。
例えば、友人が大病をわずらって大掛かりな手術が必要になったら1億でも2億でも惜しみなく払うが、自販機の缶コーヒーは決して買わないものだ。
他にも……そうだな、金持ちはベンツに乗るんだが何故だと思う?」
ススムは進に問う。
「えっと……見栄を張りたいからですか?」
「間違いだ。正解は『安全だから』だ」
「?? あ、安全?」
意外な言葉に進は戸惑う。それを見てススムは解説しだす。
「ベンツこと『メルセデス・ベンツ』を販売している会社はドイツにあるんだが、そのドイツの高速道路であるアウトバーンは速度制限が無くいくらでもスピードが出せるし、制限されていても100km/hや130km/hまで出せるそうだ。
そんなところで事故を起こしても中にいる人間が無事でいられるように、ドイツ車は特に高い安全性能があるんだ。
ましてや上得意である金持ちを乗せている車となればなおさらだな。
『カネで命は買えないが安全は買える』だから金持ちは事故を起こしたり、巻き込まれても生き残れる可能性の高いベンツを欲しがるのさ」
「ベンツは安全だから」とススムは解説した。進はそれに納得したようだ。
「あとは、そうだな……さっきも言ったが金持ちは『必要ないところにはびた一文払わない』ものだ。それを見て金持ちはカネを払わないケチだと言い張るのだろうな」
「え? じゃあ普通の人ってのは無駄遣いしているんですか?」
「ほほぉ、いいところを突くようになったじゃないか小僧。その通りだ。貧乏人は無駄遣いするから貧乏人なんだ。例えば通勤路の途中にある自販機で仕事場からの帰りに何気なく130円を払って缶コーヒーを飲んでいるとしよう。
月に20日働くとするとそれだけで月2600円の損失になる。本は1冊、中古なら上手くいけば2冊は余裕で買える金額になる。
コーヒーが飲みたければ家でインスタントコーヒーやドリップコーヒーを買ってそれを飲んだ方が安く済む。それに気づいていないから貧乏人なんだ」
ススムの話を聞いて進は口にはしなかったが「そういえば帰り道に特に意味もなく缶コーヒーを飲んでる」と思い当たる節があった。
「他にもそうだな……なぜ金持ちはブランド物のバッグや財布を欲しがると思う?」
「えっと……高いからですか?」
「違う。正解は「その方が安く済む」からだ」
「?? どういうことですか?」
高いブランド物の財布やバッグの方が安く済む。というススムの発言に進は不意を突かれる。
「小僧、お前でも『安かろう悪かろう』とか『安物買いの銭失い』という言葉は聞いたことはあるだろ?その辺の店で買える安物のバッグや財布は1~2年でダメになって買い替える必要がある。だがブランド物の財布やバッグは丈夫で少なくとも10年は長持ちするから買い替えるカネや買い替えのために店に行く時間を節約できる。
特にこれは重要なのだが、金持ちというのは「時間」を大事にする。いくらカネを積んでも時間だけは増やすことは出来ないからな。
それを知らずに「金持ちが持っているから」という理由で買うのはただの愚か者だ。『豚に真珠』とは言ったものだ」
普通の人間がよくやる「金持ちとおそろいになれるから」という理由でブランド物の財布やバッグを買うのをススムはそう断罪していた。
「ところで小僧「
「え……?」
老人の話はまだまだ続く。
【次回予告】
「資産と負債の違いさえ分かれば金持ちになるのは簡単だ」老人はそう言う。
第25話 「資産と負債の違い」
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