第23話 どん底からの一発逆転ストーリーには気をつけろ
「小僧、「どん底からの一発逆転ストーリー」には気をつけろ。
何故なら「どん底からの一発逆転ストーリー」は時代を問わず受ける「面白く」て「楽しい」話だからだ」
「……? 一体どういうことですか?」
ススムはふうっと息をつき話を続ける。
7月も残り半分と言える時期になり、蒸し暑い日々が続く。職場であるデイサービス施設はエアコンが効いているのが幸いだった。
そんな中、ススムからの授業が始まる。
「時代によってテクノロジーの違いはあれど、人間は基本的に原始時代から根本的な部分は変わってないから、欲しがるものは時代を通じて基本変わらん。
受けるパターンというのは決まっていて、そのストーリーラインに乗せるだけでも下手に自己流でやるよりも良い物は出来上がる。
実際100年以上も昔のお話である童話の「シンデレラ」も、「みにくいアヒルの子」も、基本的な部分は「どん底からの一発逆転ストーリー」だ。
100年前の昔も受けていたし今でも受ける、そして間違いなく100年後でも受けるはずだ」
ススムはペースを保ったまま話を続ける。
「そういう話では本当は「実家が太い天才」だったとしても、とにかく悩みまくってどん底を味わうものだ。契約が取れなくて公園のベンチに一日中頭を抱えてボロボロ泣きながら過ごすのはまだまだ序の口。
新卒で入った会社では落ちこぼれの役立たずの給料泥棒と言われて上司からぶっ飛ばされるとか、飛び込み営業をして営業妨害だと言われて警察を呼ばれたとか、
さらにはガスが止められて冷たいシャワーを浴びただの、水道を止められて公園の水で過ごしただの、と手口はいろいろだ。
だが覚えとけ。「どん底からの一発逆転ストーリー」は読み物としては面白いが実際役に立つかどうかは別だ。シンデレラは面白い話だが人生の教訓にはならんのと一緒だ」
ススムは険しい表情を解かずに話をさらに続ける。
「逆に力もカネも持った人間がそれを使ってとんとん拍子に成功していくお話というのはつまらなくて、受けん。
カネも力もある人間がとんとん拍子にうまくいくお話というのは見ててもつまらないし金持ちのイヤミに聞こえてくるからだ。
「99%の普通の人間」からすればそういう話は日常生活に接点が無く、退屈で面白くも楽しくもない。だから言わないし、言っても「そんなの欲しくない」と言われて無駄だからな。
奇跡は滅多に起こらないからこそ奇跡なんだ。それが都合よく自分の身に起きると考えるとうまくいくわけがない。宝くじにすがるようなものだ。
宝くじの1等の当選確率は聞いた話では2000万分の1だそうだが、この確立は一説には「雷の直撃を生涯の間に2回受けるのと同じ確立」だそうだ。そう考えるとバカらしいとは思わんか?」
「……」
そこまでは黙っていたが進は口を開く。
「じゃあ一発逆転なんて出来ないんじゃないんですか? 俺は一生このままなんですか?」
「安心しろ小僧。オレとしては『逆転自体』を否定するわけでは無い」
不安がる進をススムは出来るだけ優しく諭す。
「逆転自体は可能だ。じっくりと時間をかけて準備し、慎重に用意をすれば逆転することは決して不可能ではない。実際、学歴は今で言う「中卒」のオレは逆転できたと言って良い位には資産を築くことは出来た。だから『逆転』自体は不可能ではない。
悪いのは『一発』逆転だ。『一発』が良くない。『一発で』逆転できるほど世の中は都合よくできてはいないからな。
人間はありえないことに魅力を感じる生き物だ。さっきも言ったが、奇跡は滅多に起こらないから奇跡なんだ。それが都合よく自分に起きると考えている時点で情報弱者だ」
『一発』が良くない。重要な部分なのかススムはしつこくそう言った。
「……一発で逆転は出来ないけど逆転自体はできる、と?」
「そうだ。中卒のオレでも出来たから小僧、オレより学のあるお前でも十分逆転はできる。お前はまだ若いからその可能性は十分ある。知識をつければ不可能では無いぞ。今は勉強の時期だ、しっかりやれよ」
その日の話はそれで終わりだった。
【次回予告】
「金持ちはケチだ」一般的によく言われるこの言葉の真相とは?
第24話 「金持ちはケチか? ブランド物を欲しがる本当の理由」
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