第22話 カネのどこが汚い!? カネとは何かがわかってない!!

 進が勤めるデイサービス施設ではススムに関して元から金持ちの噂は広がってはいたが、それが息子や孫の襲来しゅうらいでいっそう広まった。

 そして「噂には背びれや尾びれがつくもの」で「傲慢な金持ち」「意地の悪い金持ち」などというマイナスイメージが付くことになった。


 進は心配になりススムの元を訪ねた。


「ススムさん。ススムさんに悪いイメージが付いてしまってますけど……良いんですか?」

「フン。その扱いには慣れている。この年になるとその程度では動じんよ。

 いいか小僧、カネは人類が決めた約束事、その最古にして今でも通じる人類の歴史の中でも普遍ふへんの物だ。カネにがめついのは悪い事だというイメージがあるが、カネのどこが汚いというのだ!?

 人間を人間たらしめるもの、それがカネだ! 犬や猫、サルはカネを持たない。人間だけがカネを持つ。人間と動物の違い、その最もたる例だぞ!」


 ススムは怒っているのだろうか、感情を込めて声を荒げる。


「それに、カネがかかるからこそ人間は仕事に真剣に打ち込む。これがタダなら「まぁタダだからな」と手抜きをする。

 逆にカネが支払われれば「カネをもらっているから手を抜いてはいけないな」と真剣に取り組むものだ。

 そのままでいれば自堕落じだらくになる人間に誠心誠意を与えるもの、それがカネだ!」


 ぜぇっ、ぜぇっと息を荒げ、そこまで一気に言う。




「ふぅ。すまなかったな、つい感情的になって。それに人間カネなしでは1日たりとも生きられん。住民税に所得税、持ち家があるなら固定資産税だってかかる。それを払えなければ財産を差し押さえられるのだ。

「カネは汚い」「カネは良くない」と言ってるやつらとてただの1人も例外ではない。そいつらの言う「汚くて良くない」カネが無ければこの日本で、いや世界のどの国においても1日たりとも生存できない事を分かってない!」


 ススムは声を荒げながら言う。相当な怒りをため込んでいるようだ。


「小僧、話を聞く限りお前は違うようだな。何せ「カネは命だ」と言うほどだからな。それを忘れるな。カネは決して汚くない。それに、そもそもカネというのは『腐ったり傷んだりせずに保存出来て、いろいろなものと交換できる道具』に過ぎん。

 昔の日本では『米』がそうだったんだぞ?」

「ええ!? お米がお金だったんですか!?」


 意外な事を聞いて進は大いに驚く。まさか米がお金として流通していたとは思わなかったからだ。


「そうだ。ずっと昔は米がカネの代わりとして扱われていたんだ。

年貢ねんぐ」と言って収穫したコメを税金代わりに納めていたんだ。現代の通貨もそれほど存在意義は変わってない。

 カネは大事だがしょせんは『腐ったり傷んだりせずに保存出来て、いろいろなものと交換できる道具』に過ぎん。

 それを『何だかよくわからないけど手に入りにくくてすごいものだ』と勘違いするから悲劇が起こる。そう思ってしまってカネの魔力に骨の髄まで魅了されて人生を破滅させてしまう者は多い」


 ススムはそこで一息ついて話を再開する。


「さっきも言ったようにカネは人間に誠意を与え、人類最古の約束事の1つと言える位古い歴史はあるが、しょせんは『腐ったり傷んだりせずに保存出来て、いろいろなものと交換できる道具』に過ぎん。カネは「価値のある物」であると同時に「ただの道具」でもある。どっちも大事なことだ。

 複数の視点や視野を持つことでカネの本当の姿を見る必要がある。そうでなければいとも簡単にカネに魅了され、カネの奴隷になってしまう。

 今日の話、忘れるなよ。でないと簡単にカネの魔力に魅了されて人生を台無しにしてしまうぞ。俺の知り合いだけでもそんな奴は何人もいる。小僧、お前だけはなるなよ」


「は、はい。わかりました。気を付けます」


 その日のお話はそれまでだった。




【次回予告】


「シンデレラストーリーは危険だ」ススムはこう言う。その意図とは?


第23話 「どん底からの一発逆転ストーリーには気をつけろ」

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