第10話 そもそも、なぜ失敗してはいけないのか?
アドバイス……進からしたら「神からの助言」なのかもしれない
話に出てきたスーパーは確かに量が多くその分単価は安かった。
朝食も夕食もその店の物を使うようになり、さらに今まで昼間は業者の弁当を頼んでいたのを自炊して弁当を作るようになって食費はだいぶ安くなった。
生活を改めてから数日後……進はススムから声をかけられた。
「どうだ小僧。もう限界か?」
「まだ終わりじゃないです。何とかやりますよ」
「その意気だ。お前は久々に見た骨のある奴だから楽しみにしてるよ」
ススムの言葉はただのリップサービスではなく、表情からも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
「ところで小僧。失敗についてどう思う?」
「……失敗ですか? そりゃしないほうが良いに決まってますけどそれが何か?」
進は彼にとってごく普通の意見を言うと老人は「またそれか」というような微妙な表情をする。
「言うと思った。お前も学校教育の害を受けてるな。小僧、では聞こう。
失敗は恥ずかしい事だし、失敗すればみじめな気分になるし、失敗は人生において一生残る汚点であって、失敗は絶対に存在してはならないことだ。
というのが普通の人間の発想だ……なぜだかわかるか?」
「え……な、なぜって言われても」
戸惑う進にススムは想定の範囲内だなという顔をして話を始めた。
「小僧、よく聞け。なぜかというと、子供のころから『徹底的』に『失敗をしてはいけない』と教え続けられるからだ。
テストに正しい答えを書けば
それほど長い時間『失敗をするな』と徹底的に教え込まれるとどうなると思う? 上からの指示だけをこなしてそれ以外の事は一切しない人間になる。
これも学校教育の害だな。その教育のせいで「失敗したら後が無くなって人生おしまいになる。世界の終わりだ」あるいは「失敗=再起不能な敗北であり絶望的な死」
という極端な発想にまで至って、失敗しただけで自殺する者すらいる。本当に残念なことだがな。
日本語の「失敗」の「敗」は「敗北」すなわち「再起不能の負け」という意味がある。その意味だと思っている者があまりにも多すぎる。
人としての人生を2回も3回も生きれるのならそれでいいかもしれんが人間の人生は1度きりだ。実際には失敗なんてあって当然なんだがな」
「!! ……そうだったんですか」
進はススムの言葉に思わず目からうろこが落ちた。
「もちろん失敗はしないほうが良い。でも何をやってもしてしまうものだ。交通事故0件を目指すと言っていくら努力しても事故が起きてしまうのと一緒だ。
他の例を出せばプロ野球の打者も打率が3割を超えればとんでもなく凄いと言われる。打率3割と言えば実際には10打席中実に7打席も三振や凡打に終わっているわけだ。それでも凄いと言えるし、7回も凡打で終わったことを嘆く3割打者はいない。
もっと身近な例で言えば小僧、お前は自転車に乗る際に1回も転ばずに乗れるようになったか? 違うだろ? 何度も転んで学んだはずだ。
さっきも言ったが人生を2回も3回も生きれるというのなら少しは器用に生きられるかもしれないが、残念なことに人生は1度きりだ。
失敗せずに生きれるほど人間は器用でもないし賢くもない。
だから「失敗して当たり前」だという教育が必要なんだがな。失敗をして褒められることなど現代の学校教育では絶対にありえないからな」
ススムはそこまで言うとハァッ。とため息をついた。どこか悲しげでやりきれない思いがあった。
「重要なのは失敗に対してどう感じるか? だ。よく「同じ失敗は2度するな」と言われるが、失敗を分析してなぜ失敗したのかの原因を突き止めろ。そうしなければ成長できん。それと、これはとても大事なことなんだが『失敗するときはなるべく被害を軽く』しろ。
フェイスブックを見れば『失敗とは成功する前にあきらめてしまうことだ』なんてほざく奴がうじゃうじゃいるが、それでは『片手落ち』だ。
『失敗した時のダメージを軽く』しなければ致命傷を負って2度と立ち上がれなくなることだって起こりうる。
実際株で大損したのが家族にばれて強制的に株の世界から退場させられた奴はオレの周りだけでも何人もいるさ」
「!! そんな人がいるんですか!?」
「ああ。残念なことだがな。小僧、出来ればお前にはそんな経験してほしくないがな」
進の言葉にススムは「そうだ」と残念そうに言う。
「小僧、これから先お前がどんな道を歩むことになっても、必ず失敗するだろう。だが失敗したで終わってはならない、そこから失敗した原因を探せ。
同じように『成功した』時も『なぜ成功できたのか? 成功を再現するにはどうすればいいのか?』を徹底的に探せ。必ずやお前の血肉になるだろう。
まぁ今のお前は当分の間借金を返すことに全力を注げ。借金がある間では動きようが無いからな。約束の日、楽しみに待ってるぞ」
その日の授業は終わった。
【次回予告】
「タダほど怖いものはない」という古い古い日本の言葉。
それは本当の事なのだという話。
第11話 「無料には気をつけろ」
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