第五章 シャクラ砂漠へ
第46話 発掘調査へ出発
ドルトムントがご機嫌で帰ってきた。
そして、開口一番、
「みんな聞いてくれ。来週、また発掘に行くぞ〜」
「それじゃあ」
ハダルの顔が明るくなる。
「ああ、ハダル。ロドリゴ様からは激励されたぞ~。もちろん資金も出してくれるって言ってたし。良かった良かった〜。石碑はいらないと言ってくれたから、ゆっくり調べられるし、いいことづくめだったぞ!」
「資金提供続けてくれるんですね! それは本当に良かった」
ハダルが心の底から安心した様子になる。
今回の資金提供の約束は、もともとハダルがロドリゴに掛け合って取り付けたものだった。
ロドリゴは
だが、今まで何の進捗も無かったので、いつ援助を断ち切られるかと内心心配していたのだ。
「発掘! 発掘!」
浮かれて喜ぶドルトムントの顔を見ると、ハダルも嬉しくなる。
やれやれと言う顔のフィオナが、スープを配りに来た。
「お父さん! ハダルに感謝してよね!」
「もちろん! ハダルありがとう!」
無邪気なドルトムントの笑顔に、フィオナがげんなりする。
「いや、俺も何が出てくるか楽しみだからさ!」
「もう、ハダルはいっつもそう言ってくれるのよね。本当に、いつもいつもありがとう」
フィオナの表情が柔らかくなる。
感謝を込めた瞳に見つめられて、ハダルの笑顔が一層輝いた。
ありがたい!
これで砂漠に行かれる!
二人のやり取りを聞いていた飛翔は、喜びで熱くなった。
一刻も早く砂漠に行きたかった飛翔にとって、発掘調査に同行できるのは絶好の機会だった。
あの砂の下に、
一体何が起こったのか分かると思うし、上手くすれば聖杜に帰れるかも知れない。
ふと、みんなと別れるのは辛いな……と気持ちが沸き上がってきたが、慌てて心の奥底に閉じ込める。
飛王と聖杜の民の事を思えば、ぐずぐずしている余裕は無いのだからと、使命と向き合う覚悟を決めた。
大量の食料品や水を積んだ荷車を馬に牽かせて、シャクラ砂漠へ向かって出発したのは、それから五日後の事だった。
前回は、ハダルの背中で眠ったまま通った道。
飛翔は今回初めて道々の景色を見ることが出来た。
家からは、長いだらだら道をゆっくり降りて行く。両側の木々はだんだん低木に代わり、乾いた草原に代わり、やがてごつごつとした岩肌がむき出しになった。
周りに家は無く、ところどころに岩山が点在する合間を縫うように進んだ。
「フィオナ、発掘の道具はどうするつもりなんだ?荷車には食料と水しか積まれてないようなんだが」
飛翔が尋ねると、
「大丈夫! ランじいのところに置いてあるから」
「ランじい?」
陽が傾きかけた頃、岩山の陰に小さな家が数件、砂風を避けるように建っているのが見えてきた。
「やっと着いた!」
フィオナが嬉しそうに声を挙げると、ちょうど入り口の戸が開いて、強面な大男が出てきて手を挙げた。
「よお! フィオナ! 待ってたぜ!」
「ランじい! また来たよ!」
フィオナが駆けていくと、ランじいと呼ばれた男は嬉しそうに相好を崩した。
歳の頃はドルトムントと変わらないくらいだが、鍛え上げられた体のあちこちに傷が見える。
多分元戦士だな……
飛翔がそう思った時、ランじいが飛翔に目を止めた。
「おお! あの時の死にぞこないの小僧、生き返ったのか!」
「あの時も帰りに泊めてもらったからね。ランじいには世話になったんだよ。さ、飛翔ご挨拶」
フィオナに促されて、飛翔は頭を下げた。
「
「いいってことよ。俺の名前はランボルト。お前が思った通り、元兵士さ!」
ランボルトの眼が鋭く光った。
考えていることを見透かされて飛翔がドギマギしていると、
「フィオナの友達は歓迎するぜ! だがな、俺は世の中では死んだことになってんだ。死んだから除隊できたってことさ。だから、俺の居場所をペラペラしゃべるようなら、首と体が離れること覚悟しておけよ!」
凄むようなまなざしを向けてきたが、飛翔が真っすぐに見返したのを見て、ふっと表情を緩めた。
「もう! ランじいったら、怖い顔しないの! 本当はスッゴく優しいんだよー!」
「はっはっは! 俺の事を優しいなんて言うのは、フィオナとドルトムントくらいさ!」
ランボルトは豪快に笑いながら、他の数人の若者を呼ぶと、荷物を下ろすのを手伝ってくれた。
「フィオナ! ありがとな。これでしばらく町に行かなくてすむな」
「ランじい! これはお礼だから。今回もお世話になります!」
フィオナがぴょこんとお辞儀をすると、ランボルトはますます顔をほころばせた。
荷車に積んでいた食料の半分は、ランボルト達へのお礼の品だった。
その代わりに、ランボルトからラクダと発掘道具とお手伝いの人を借りて、発掘調査へ出かけることになるのだった。
「とりあえず、食いもん用意してあるから、食べてから明日の準備をすればいい」
ランボルトはドルトムント達を小屋へ誘った。
食堂には、
「いやあ、ランボルト、いつもすまない。助かるよ!」
ドルトムントが礼を言うと、
「なあに、俺もみんなに会えるのを楽しみにしているんだぜ。それに、お宝発掘もワクワクするしな。ほら、ククミスもあるぞ! 水分補給にいいからしっかり食っておけよ」
ランボルトは手慣れたしぐさでククミスを切り分けると、みんなに配ってくれた。
「わーい、ククミス!」
フィオナの嬉しそうな声を聞きながら、ドルトムントが飛翔に囁く。
「ククミス、ようやく食べられるな」
飛翔が思わず吹き出すと、フィオナが悪口言ったわねと言う視線を向けてきた。
みんなでワイワイ食べながら、明日からの発掘について話をしていると、ハダルが飛翔に、お手伝いの青年二人を紹介してくれた。
オルカとイデオという二人の青年は、いつも参加しているらしく、発掘に慣れているからとハダルが付け加えた。
二人もがっしりした体格で、やはり元兵士だろうと思われた。
「このラトゥマとククミス瑞々しくておいしい!」
フィオナの言葉に、ランボルトが嬉しそうに頷いた。
「そうだろう!採れたてだからな」
「野菜の栽培をしているんですか! こんな砂漠で!」
飛翔が驚いて尋ねると、
「まあな。俺たちはこの集落でほんの十人ほどで住んでいるからな。ま、色々訳ありな奴らが多いからね。町へ買い物に行くよりも、自給自足で食べたほうが都合がいいのさ。なあに、砂漠でもこの辺りは作物栽培が全然できないわけじゃ無いぜ。山陰に水場があってな。たくさんは栽培できないけど、少しなら大丈夫なんだ。蓄えはできないけれど、その日暮らしはできる。俺たちの性に合ってるって訳さ!」
「その日暮らし……」
「ああ、寝るところがあって、今日食べるご飯があって、仲間がいる。これ以上の幸せがあるかな? 十分だな。あ、酒が入って無かった。酒も外せないな」
ガハハハッと笑いながら、ランボルトは盃を飲み干した。
「残念! これは、水だった。まだ一仕事あるからな~。終わったら、飲みまくるぞ!」
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