第14話 青い髪の旅人

 階下の食堂で、三人は飛翔ひしょうについて話し合っていた。


飛翔ヒショウはいったいどこから来たのかしら? バルト語が通じているから、海洋都市のバンドスからかしら?」

 フィオナが不思議そうに呟いた。


「確かにバルト語が通じると言うことは、共通語を知っているってことだよな。でも、それだけでバンドスからとは言い切れないな。それに、隊商とか商売をしている人っぽくも無いんだよなー。あいつの手には、タコがところどころ出来ているし、多分何かを作っている人じゃないかな?」

「なるほど!ハダルの観察眼って、やっぱりすごい!」

 フィオナが感心したように言うと、ジオが割り込んだ。


「瞳の色はハダルと同じ金色だけど、髪の毛の色は青色で、ちょっと変わっているよな~。この国は多民族国家だから、いろんな髪の色の人がいるのは当たり前だけどさ、青い髪の毛の色は、見たこと無いぜ。海洋都市出身の黒髪、宝燐山より西から来た金髪、壮国チャンゴの茶色、後は、混血が進んで多少色合いが混ざった感じになってるけど、青色は初めてだよな」

「ジオもだいぶ学者っぽいこと言えるようになってきたじゃない」

 フィオナはいたずらっぽくジオを見た。


「そうよね~。着ている物は、シンプルだけど見たこと無い形だし、でも生地は絹みたいに艶やかで、刺繍も細かくて手が込んでるわ。どっかの国の貴族みたいな感じだけど、いったいどこの国の?でも切られた跡があったから、戦いににでも巻き込まれたのかな」

 フィオナは心配そうに首を傾げる。


「怪我してたのは、確かに心配だよな。まあ、深い傷では無いから大丈夫だろ。直ぐ治るよ。いいところのボンボンなのは決定だな。上着と肌着の二枚重ねだからな。でも、青い色の肌着なんて、この辺りじゃ見たことないぜ」

「この辺りだけじゃないじゃん、今まで見たことなんてないよ」

 フィオナとジオが口々に気づいた点をあげたが、結局何もわからないままだった。


「青い髪の毛というのが……やっぱり気になるな」

 ハダルが考え込むように言った。


「お前らは知らないか? 青い髪の旅人の話。青い髪の旅人は不幸を呼ぶとか争いを呼ぶと忌み嫌われている地域と、幸せを呼ぶ豊かな生活を運んでくれると歓迎されている地域とあるんだ。あくまでも言い伝えレベルで、本当に青い髪の毛の人を見たことがある人はいないんだが、今俺たちの目の前には現れた。これはどういうことなんだろうな」


「そんな言い伝えがあるの?」

 フィオナが驚いたように声を挙げると、ジオも頷きかけたが、

「俺も初めて……いや、そう言えば製鉄の技術は青い髪の民から伝わったって話は聞いたことあるな」

 ふと遠い記憶の欠片を思い出したように呟いた。


「そうか……。どちらにしろ、彼の事は周りの人達に気づかれないようにしたほうが安全かもしれないな。俺たちのためだけでなく……彼のためにも」

 ハダルは慎重に言葉を繋いだ。

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