第7話 裏切りの理由
恐らくは、地下の碑文の間にすでに隠れていたのだろう。
刺客はみな顔を布で覆い、黒い装束に身を包んでいる。
一目で、
「もしや、これは
「もちろん、
「そう言う事か! 父上を毒殺したのは、お前だったのだな!」
飛王が驚きと悲しみと悔しさの入り混じった声で言うと、
「今頃気づかれたのですか? なんと甘々な王子様方ですね。
「なぜだ? 『ティアル・ナ・エストレア』を守るために一番尽力していたはずの、神官のお前が、なぜ裏切るようなことをするのだ?」
「『聖杜の民の誓』のことですか? あんなものに縛られているから、我々聖杜の民はいつまでたっても貧しいのです。犠牲ばかり払っているのに、民の未来は消滅へ走っているだけ。『知恵の泉』という大きな国民の財産を持ちながら、隠しておくだけなんてもったいない! そんなことだから、『ティアル・ナ・エストレア』の力が弱まってしまっているのです」
飛王は頷きながら、なだめるように言葉を紡いだ。
「お前の考えは分かった。だが、十年前まではそんなことは無かったではないか。人々は『知恵の泉』の知恵を持って他国へ赴き、人々の幸せのために尽力していた。けれど、行った先々で、せっかくの知恵が、人々の生活の向上に使われずに軍事転用されたり、酷い時には、知恵を伝えた者がスパイ容疑で処刑されたり、聖杜の民の思いが無に帰する事件が多発したから、父上は門を閉ざしたのだ。決して、弱腰になった訳ではない。聖杜の民を守ろうとされたのだ」
その時、飛王と飛翔は、
「現に、そなたの父上も、非業の死を遂げられたでは無いか!」
「だからですよ!」
「父は人々のために働いたのに殺された! なのに、この聖杜の民は、国王は、『ティアル・ナ・エストレア』は、何もしてくれなかった……。門を閉ざしただけ。せっかくの知恵も、民の身を守るためには使ってくれない。なぜです! せっかくこんな力がありながら、なぜ他国のためにばかり働いて、自国の民のために使おうとしないのですか! 何のための知恵ですか!」
「それは……」
飛王も飛翔も、何も言い返せなかった。
確かに、今まで聖杜の民が、伝説のために犠牲になってきた。
それは紛れもない事実だった。
「なぜあの時、父の仇をうちに行ってくれなかったのですか!」
「それは……仇を打っても父上の命はかえってこないし、更なる争いを産むだけだ。争いの連鎖が起きれば、それこそ聖杜の民は消滅してしまうではないか!」
「そんな、綺麗ごとが、通用すると思っているのですか! あなた方は、それで気持ちが収まるのですか? どうです! 父王の仇が目の前にいる気分は! 怒りが沸き上がってきませんか? 私を殺したいとは思わないのですか?」
「さあ、私を殺すがいい! 聖人ぶった王子たちよ!」
飛王と飛翔は、服の上から自分の剣に手を掛けた。
けれど、抜こうとはしなかった。
厳しくも悲しみに満ちた目を、
「やっぱりあなた方は腰抜けだ! だから、私はもっと力を使える方に、『ティアル・ナ・エストレア』の継承者になって欲しいのです! この力をきちんと使える、強力な支配者に! 命をちゃんと守れる支配者に! 強力な力で他国をねじ伏せる。圧倒的力を持てば、他国に自国の民を蹂躙される危険なんてないんですよ!」
「それは違う! 圧倒的な力を持てば争いがなくなるなんてことはあり得ない!」
飛王が必死に抗議したが、
そして、無言のまま右手を挙げると、暗殺部隊に襲撃の合図を出した。
「殺せ」
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