第12話 千年後
飛翔が二度目に目を覚ましたのは、土色のレンガに囲まれた部屋の中だった。
「おっ、やっと目を開けたぜ」
快活な男の声が聞こえ、
「ほんとうだ~」
と言いながらターバンのような布を頭に巻いた少年の顔がひょこっと覗きこんだ。
「ジオ、フィオナに知らせてあげてくれ」
ジオと呼ばれた少年はほいほいと答えながら部屋を出て行った。
「気分はどうだ? 少し起き上がれるか?」
浅黒い男がそっと飛翔の体を持ち上げて、背中に枕を挟んでくれた。
飛翔はぼーっとした頭のまま、目だけで辺りを確認する。
ここは、いったいどこだ?
「目を覚ましたのね。良かった。二週間も眠り続けていたから、心配していたのよ。顔色も良くなったわね」
フィオナがジオと一緒に入って来た。
「あ、ありがとう。助けてくれて」
飛翔は頭を少し持ち上げると、かすれる声で礼を口にする。
フィオナは飛翔にコップの水を渡すと、ゆっくり飲むようにと付け加えた。
一杯の冷たい水に癒やされた飛翔は、少し元気になって、改めて礼を言った。
「君たちが運んでくれたんだな。手数をかけてすまなかった」
「うーん、それがねー色々あってさ~本当は荷台に寝かせて運ぶ予定だったんだけど、お父さんが大きな石碑みたいなのを二つも見つけちゃったものだから……だから、それを積んだら荷台のスペースが無くなっちゃって」
フィオナはペロリと舌を出した。
「結局、ハダルが負ぶって運んでくれたのよ。後でお礼を言っておいてね」
フィオナはそう言って、部屋の隅にいる、浅黒く日焼けした美丈夫な青年を指した。黒髪に涼やかな金色の目元が笑っていた。
「ありがとう、ハダル。重い思いをさせてすまなかった」
「大丈夫!鍛えているからな」
ハダルはグッと腕を曲げて、引き締まった筋肉を見せた。
「こっちのターバン頭がジオで、私はもう知っているわよね。フィオナよ。あなたの名前はヒショウだったわね。これからよろしくね!」
ターバン頭と呼ばれた少年は、ふくれっ面でフィオナに文句を言った後、ニコッと飛翔に目を向けた。
「よろしくな!」
飛翔は改めて部屋にいる三人を見た。
フィオナは金髪に青い瞳の色、歳の頃は十八歳くらいか。
ハダルと呼ばれた男は、黒髪に金色の瞳、この中では一番年長で落ち着いている。二十代半ばくらいに見えた。
ジオはターバンを巻いているため髪の毛の色は見えないが、瞳の色は茶色でフィオナと同じくらいの年頃に見える。
みんなバラバラの容姿という事は、兄弟姉妹ではなさそうである。
フィオナが父さんと呼んだ人物が他に居ると言う事か……。
フィオナが不思議そうな声で尋ねてきた。
「それにしても、なんであんなところにいたの? あんな砂漠の真ん中に!」
「砂漠?」
「そうよー。あんなところ、普段だったら誰も通らないわよ」
フィオナはお粥を用意しながら続けた。
「ここは、どこだ? 今日はいつ?」
「ここは、
「壮暦六十八年? それはアラル暦二百七年からどれくらいたっているんだろうか?」
「アラル暦って、世界暦のことか? それなら、今は世界暦千二百三十六年だぜ」
ハダルが答えた。
世界暦千二百三十六年ということは、だいたい千年後ということか……
本当に俺は時空を超えてしまったんだ!
飛翔は腹の底がシンと冷えるのを感じた。
自分は今、千年後の時代に来ているのだ。
タイムトラベルをしたという事実が、現実となって襲い掛かってくる。
それとも、国名が変わっただけなのか?
俺が倒れていたところは神殿の中のはずなのに、なぜ砂漠に倒れていたんだ?
時間だけで無く、場所も移動したのか?
次から次へと浮かぶ疑問をどこから確認すべきか考えていると、
「はい、口を開けて!」
フィオナがお粥のスプーンを口の前に差し出した。
「あーいいな~。フィオナに食べさせてもらえるなんて!」
ジオがからかい顔で口をはさんだ。
「あ、ありがとう。自分で食べられるので、大丈夫だ」
飛翔は急に恥ずかしくなって、慌ててスプーンを受け取った。
「それより、いくつか教えてもらいたいことがあるんだが……」
「わかったわ。はい」
フィオナはお粥の椀を手渡すと、何が知りたいのかと尋ねてくれた。
「地図を見せてもらえないだろうか?」
「地図? あなたは隊商商人だったの? ジオ、取って来てくれる?」
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