第9話 時の輪の中で
『知恵の泉』に落ちた飛翔は、沸き上がる泡にもみくちゃにされた。水面を目指して必死で泳ぐも、一向に辿り着けない。
「飛王! 大丈夫か!」
叫ぼうとして、ごふっと水を飲み込んだ。鼻もツーンとする。
一体どうなっているんだ!
意識が朦朧とする中、温かく白い光に包まれるのを感じた。
俺はこのまま死ぬのか?
いや、まだ死ねない!
飛王の元に戻ならなければ……
そこまで思ったところで、完全に意識が途切れた。
どれくらい時がたったのだろうか……
気づくと、星空の中を漂っていた。
俺は今、宇宙にいるのか?
その時、頭の中に直接声が降ってきた。
これが
少し高くて細いけれど、優しく温かい声だった。
人の子よ。私に何用だ。
飛翔は必死で願った。
飛王のところへ帰してください!
飛王を助けなければならないんです!
だから、元いた場所へ帰して欲しい!
そうか…
宇宙の神は静かに言った。
そろそろ時が満ちたと思っていたのだが、そなたは自分の使命を知らぬようだな。
私の使命?
飛翔は驚いて尋ねる。
神の声は静かに告げてきた。
よかろう!
『ティアル・ナ・エストレア』の片割れよ。
これから、そなたに大切な役割を与える。
『ティアル・ナ・エストレア』の本当の使命を見つけ出すのだ。
それは遠い昔に失われ、少し違った形で伝わってしまったようだ。
だから、まずは、本当の使命を探せ。
飛翔は混乱と落胆の心のまま、神に頼んだ。
なぜ、今それを教えていただけないのですか?
もともと、神であるあなたが私たちに下された使命なのですよね。
ならば、今、ここで教えてください!
ほほほほ…
宇宙の神は面白そうに笑った。
なぜ私が教えてやらねばならぬ。
私は人を作った。そして、知恵を与えた。
その知恵を使ってどう生きていくのか。
それは、そなたたち人の自由だ。
私がどうこうする話ではない。
だが……
その声が、自愛に満ちた響きに変わる。
知恵が人を生かす時もある。
知恵が人を陥れる時もある。
そなたの求める真実が、簡単に辿り着けるとは限らぬ。
探し続けるか、あきらめるか。
それもまた、そなたたち人の自由だ。
さあ、おしゃべりはここまで。
おまえのなすべきことをせよ。
おまえの片割れも、今そのことに気づいたようだ。
本当の使命を知った時、そなたたちがどのような道を選択するのか。
それは、そなたたち次第である。
大丈夫だ。
そなたたちは二人で一人。
剣と指輪がそろわなければ、『ティアル・ナ・エストレア』の役目も果たせぬ。
大丈夫。
そなたたちは、いずれまた必ず会える。
だから心置き無く、そなたはそなたの役割を果たせ。
そうだな、一つだけヒントをやろう!
『ティアル・ナ・エストレア』のティアルは『希望』を表すと言われているが、最初は別の意味だったのだ。
『希望』などという不確定で明るい言葉では無かった。
ティアルが、いつの間に『希望』と言う意味に変わったのか。
なぜ意味を変えたのか。
さあ、謎解きの時間の始まりだ!
その言葉が終わると同時に、飛翔はまた光に包まれた。
有無を言わさぬ光の渦の中で、飛翔はそれでも、飛王の元へ帰れることを願っていた。
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