第3話 双子の王子

 聖杜セイトの神殿に、二人の青年が並んでひざまずいていた。

 

 二人の面立ちはとても似ていたが、長い髪の色はわずかに濃淡の差があり、一人は深夜を思わせる群青、もう一人は暁の光を帯びたような瑠璃色の髪をしていた。

 

二人の目の前には透けた蒼の水面を湛える泉。

 

 周りを取り囲む腰丈ほどの白い大理石の壁には美しい花の様な模様が施されていて、人々から大切にされていることが伝わってくる。

 聖杜セイトの民から『知恵の泉』と呼ばれていて、この泉の周りでくつろげば、必ず良い考えが浮かび悩みが解決できると言われていた。


 そして、この『知恵の泉』こそ、忘れ去られた始まりのであり、剣と指輪が授けられた地であった

飛翔ひしょう、あれはちゃんと持って来ているな」

「大丈夫だよ、飛王ひおう。リフィアに頼んだから完璧さ」

「そうか……」

 群青色の髪を後ろで高く結んだ飛王ひおうの瞳に、少し寂し気な色が浮かんだように見えたが、直ぐに気を引き締めて言葉を続けた。


「父上があのような死を迎えられたからには、今日のこの禊祭みそぎさいも狙われているはずだ。俺はこの剣があるから戦えるが、お前は今、何の武器も持っていない。外で瑠月りゅうげつが待機しているから、何かあったらまず逃げろ。そして瑠月りゅうげつを呼びに走ってくれ。」


「俺がそんな役立たずに見えるのか、飛王ひおう?」

 同じく一つ結びの瑠璃色の飛翔ひしょうはそう言いながら祭祀服の裾をまくって、一振りの剣を指差した。 


「禊祭は武器帯同が許されて無かったはずだがな。」

 飛王はニヤリとして囁くと、同じく隠し持っていたもう一振りの自分の剣を、服の下からちらりと見せた。


「とりあえず、援軍が来るまでこれでなんとかなるかな。」

 二人はお互いに頷き合った。


 飛王が『あれ』と言ったのは、星光石せいこうせきの指輪(ルス・エストレア)のことであり、自身が携えている剣こそが、星砕剣せいかいけん(ロアル・エスパーダ)であった。

 どちらも、『ティアル・ナ・エストレア』の継承者の証であった。


 禊祭みそぎさい…それは王の交代が行われる前に、宇宙の神へ継承者の交代を報告する儀式である。


 飛王ひおう飛翔ひしょうは双子の王子。

 

 そして、兄である飛王は、次期王位継承者でもあった。

 

 つまり、聖杜せいとの国王は、古より代々『ティアル・ナ・エストレア』の継承者だったのだ。



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