インティオとオメガ 中編2

「順を追って説明いたします。

 職務を全うできない場合、業務上過失罪で地位を剥奪します。加えて、インティオは人ではなく天気を正確に管理させるために作られたアンドロイドです。

 アンドロイドが目的を遂行できなければ、存在理由はありません。

 そのため、廃棄処分という判決を出しました。

 ご理解いただけましたか。」

「雪を降らせたのは俺の魔法で、インティオさんがそれを止められなかったのは事故でしょう」

「インティオの過失です。

 ニクスがイノセントの忠告によって魔法の使用を止めたのは、確かにS区外でした。

 インティオの性能で雪を止めることは容易です」

 ニクスの反論を正論で返すオメガ。

「質問は以上でしょうか」

 2人がでも、だって、と続かない言葉を繰り返していると、オメガは指を一振りしました。どこからともなく、黒い球体が現れ、冊子をニクスに渡しました。

「十分に目を通し、覚えなさい。特に、54ページからの、魔法使いの欄をよく読んでおくように。

 S区基本禁止条項です。」

 呆然としていたニクスが、やっとの思いで、はい、と返事を絞り出します。

「イノセントも以前渡した冊子を読むと同時に、弟子の指導を徹底すること」

「ごめんなさい」

 イノセントは目を伏せます。

 オメガがホログラムを消す直前に、イノセントがオメガに聞きます。

「廃棄処理場はどこ?」

「タワーから西に5キロ進んだところにあります」

 オメガのホログラムが消えた直後、イノセントは杖にまたがって、座り込んでいるニクスに言います。

「いくよ!止めなきゃ!」

「でも、魔法は使っちゃ……」

「このままじゃインティオ君が死んじゃうんだよ!」

 ニクスを自分の後ろに乗せて、イノセントは呪文を唱えて宙に浮かび、窓をから外へ飛び出していきました。

 空を飛ぶ車の間を縫って、西に高速で飛んでいきます。

「インティオさん、アンドロイドだったんですか」

 ニクスがイノセントに聞きます。

「彼の耳飾りに、S区の印が書かれてたでしょう。あれ、科学で作られたって意味なの」

 変な音がして、ニクスが後方を見ると、さっき見た金属の輪と黒い球体が追ってきていました。

「イノセントさん、後ろから来てます!」

「知ってる!」

 廃棄処理場が見えてきたところで、イノセントはニクスに言います。

「ニクス君は下りて、インティオ君を見つけて。

 僕はこのまま飛んで引き付けるから!」

 ニクスが返事をする前に、イノセントは廃棄処理場にニクスを振り落としました。

 格好よく着地できなかったニクス。

 痛がる暇もなく立ち上がって、廃棄処理場に入ります。

 そこでニクスの目に映ったのは、職員ロボットに運ばれる、アンドロイドでした。

 電源を抜かれたのか、目を閉じ力なく台車に乗せられています。

 なんとか取り返せないか、とロボットの後ろをついていきます。

 ロボットは少し奥に進んだところで、ゴミ山にアンドロイドを投げ捨てました。

「あ」

 思わず声が出ましたが、職員ロボットには聞こえなかったようです。ロボットは踵を返して、元来た方に戻ってきます。

 ニクスは慌ててゴミの影に隠れます。

 ロボットが通り過ぎて行ったのを見て、ニクスは捨てられてアンドロイドに駆け寄ります。

 信じたくありませんでしたが、それは確かにインティオでした。

「い、インティオさん……?」

 呼びかけて、肩を揺らしても、反応がありません。

 よく見ると、首元のコードが無理やりにちぎられてむき出しになっています。

 手袋越しに伝わってくる冷たさに、ハッと手を引っこめます。

「ニクス君!」

 どこからか、イノセントの声がしました。

「インティオ君、いた?」

「……。いました。

 でも、手遅れでした」

 ニクスが小さな声で答えます。

「……そっか」

 イノセントもゴミ山を越えて、インティオの姿を見ました。

「もう、直せないんですかね」

「直せたとしても、僕らにその知識は無いよ」

 仮に、技術者としても技能があったとしても、インティオを再び動かすことは、出来ません。

 完全な死でした。

 不意に、イノセントはインティオを担いで地面に寝そべらせました。

 そして周りのごみを払い、荷物から魔法道具を取り出します。

「イノセントさん、何をしてるんですか」

 ニクスが聞くと、イノセントは手を止めずに答えます。

「インティオ君を生き返らせるの」

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