いばら姫と電気羊 中編
「私、インソムニア・ブライア様の妻、スリープ・シープと申しますの」
「妻?」
「はい、ですの。妻ですの」
スリープ・シープはにこりと笑いました。
混乱したイノセントとニクスは、顔を見合わせてから、尋ねます。
「その理由を聞いても?」
「もちろんですの」
スリープ・シープは、微笑んだまま、自らの昔話を始めました。
――もともと、いばら姫様は不眠症に悩まされていましたの。
そこで、いばら姫様のお父様がいばら姫様の不眠症を解決し、いばら姫様を寝かしつけることができた者を、いばら姫様と結婚させると発表したのですの。
いばら姫様はそのお名前にふさわしく聡明で慈悲深くとても美しい女性ですので、様々な種族の男性がこぞって挑戦しましたの。しかしいばら姫様の不眠症はひどく、寝かしつけられたことありませんでしたの。
私を造った父もそれに挑戦する一人でしたの。彼はS国の科学者でしたので、睡眠効果を一体に詰めた私というアンドロイドを造りましたの。
ですが父は睡眠効果を未調節のまま私を起動してしまい、私の睡眠効果で眠ってしまいましたの。
それでも私はいばら姫様の不眠症を解決するようにプログラムされたので、単身でいばら姫様の屋敷に向かいましたの。いばら姫様の屋敷には門番やほかの挑戦者の方々がいらっしゃいましたが、皆様、私の睡眠効果で眠ってしまわれましたの。
ですがただ一人だけ、ええ、いばら姫様だけが私と目がお合いになりましたの。
私はその聡明で慈悲に満ちた美しいその姿と瞳に、心が奪われましたの。
その後、私は睡眠導入効果を最大限に引き上げて、いばら姫様に子守唄を歌って差し上げましたの。そうして、いばら姫様は眠りにつきました。
そうして、私はいばら姫様寝かせることに成功して、婚約が成立しましたの。――
スリープ・シープはそう締めくくりました。
ニクスはゆったりした話し声にぼんやりした頭を、慌てて振ります。
イノセントは、いばら姫を見て言いました。
「いばら姫様は、いつから寝てるの?」
「半月前からですの」
スリープ・シープが答えます。
「その間、ずっと寝ているの? それって、変だと思わない?」
イノセントはスリープ・シープに問い詰めます。
「それは、今までの睡眠時間を取り戻していらっしゃる……」
「君の睡眠導入効果が、街にまで影響していることをしていることを知ってる?」
「え」
当然の話に、スリープ・シープの動きが止まりました。
「君が最大値にしている睡眠導入のα波は、屋敷の中だけでなく、街の住民や動物たちや木々、暖炉の火でさえ眠らせてしまったんだ。
僕たちは、魔法で一時的に睡眠欲求を抑えることで起きていられてるけど、それもそろそろ限界みたい。
だから、α波を止めてくれないかな」
「でも、いばら姫様は」
「いばら姫様は一度も目覚めていないのに、寝たいかどうかなんて、分からないでしょ。しかも、半月も何も口にしていないのは、命の危険でもあるよ。」
イノセントの言葉に、スリープ・シープはα波を止めなければと思いました。
ですがそれと同時に、このままではいばら姫を救った二人の魔法使いが婚約者とされてしまうのではないか、とも思いました。それは嫌だ、と思いました。
「わかりましたの」
スリープ・シープはにこりと笑って、イノセントに歩み寄りました。
その行動の理由が分からず、イノセントの判断が遅れました。
「だから、おやすみなさい」
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