いばら姫と電気羊 前編
SF国は、言いつたえや伝統や迷信が色濃く残っています。
思いの込められた名前にはその人の人生を左右する力が宿ることがあるというのは、SF国の人たちにもっとも知られている言い伝えの一つです。
例えばシンデレラと名付けられると、童話のシンデレラのような人生を送ります。例えばいばら姫と名付けられると、いばら姫のような人生を送ります。
巷でいばら姫と呼ばれている“
そんないばら姫のために、最近やってきた少女の名前はスリープ・シープ。羊の角が生えた半獣の姿をしていて、彼女のそばにいるだけでどんな生き物も頭の中で羊を数えるように眠くなってしまいます。
彼女の瞳は睡眠効果のある催眠術をかけ、彼女の歌声は子守唄のような心地よさがあり、彼女が動けば動くほど眠気を誘います。
その力を使って、スリープ・シープはいばら姫を寝かしつけるというお役目につきました。いばら姫が眠っている間、身の回りのこともこなします。
いばら姫が目覚めた時のための紅茶の準備や、室内の掃除。
それでも、長時間になると仕事が無くなってしまうので、その時はいばら姫の枕元に座っていばら姫の寝顔を眺めながら子守唄を歌います。
ある朝日が窓から差し込む中、スリープ・シープが鼻歌を歌いながら部屋を掃除していると、寝室の外から足音が聞こえてきました。
スリープ・シープは動きを止めて、扉の方をじっと見つめます。
二人分の足音は扉の前で止まり、少しした後、大きな重い扉がゆっくりと開かれました。
現れたのは、二人の魔法使いでした。一人は大きな黒い帽子をかぶった緑髪の魔法使い。もう一人は毛皮のコートに身を包んだ青髪の魔法使いです。
「どなたですの?」
スリープ・シープはいばら姫を背に、二人に立ちふさがります。
緑髪の魔法使いは帽子を脱いで、お辞儀をしました。
「僕は、ピュリティ・イノセント。初めまして」
青髪の魔法使いも、フードを脱いで会釈をします。
「俺は、ニクスです。」
ニクスはイノセントに耳打ちをします。
「彼女がスリープ・シープですかなんですか?」
「そうだよ。」
イノセントはうなずいて答えます。
「アンドロイドには見えませんが」
確かに見た目は人間にそっくりだけど、羊の角のところに紋章があるでしょ?あれは科学で作られた個体であることを示すものだよ」
「じゃあ、彼女が」
ニクスが言うと、イノセントはうなずきました。
「イノセント様とニクス様ですのね。面会のご予定は入ってないはずですの。」
スリープ・シープは首をかしげます。
「申し訳ありませんの。ただいま、いばら姫様はお眠りになっていらして」
「それは大丈夫。僕たち、君に用があるから」
イノセントが答えます。
「私に、ですの? ああ!そういえば私、まだ名乗っておりませんでしたの」
スリープ・シープはスカートの裾をつまんで丁寧にお辞儀をしました。
「私、インソムニア・ブライア様の妻、スリープ・シープと申しますの」
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