ヘンゼルとグレーテル 後編
「これで、ミッションコンプリートだね!」
魔法使いが、満足げに言いました。
「じゃあ、君たちの魔法を解こうか」
兄妹は、魔法使いの指示で、森の近くに、馬車を下しました。
魔法使いは、兄妹に向かって、杖を振りました。
「……あれ?」
兄妹の姿は、仔馬から元の姿には戻りませんでした。
「もしかして、シンデレラにかけた魔法と同じように、十二時にしか解けないようにしちゃったのかな……」
魔法使いが呟くと、二匹の仔馬はぴょんぴょん跳ねたり、鳴きわめいたりし始めました。
「ごめんね。魔法をかけることは得意なんだけど、魔法を解くのは苦手なんだ」
十二時まで、あと二時間もあります。
「なにか、いい方法は無いかなあ。時間が進むばっかりで、何にも……」
と魔法使いは、そこまで言って固まりました。
どうしたのだろうと、兄妹は魔法使いに寄って行って、顔を覗き込みました。
「そうだ! 痛ッ」
顔を上げた魔法使いは兄妹と額をぶつけました。
「じゃなくって、魔法の時間を十二時まで時間を進めればいいんだ!
魔法に魔法をかけるのは初めてだから、ちょっと時間かかるかも……」
魔法使いはその場にうずくまって、ぶつぶつと計算を始めました。
その時、森の木々が揺れました。現れたのは、大きな灰色毛の狼。体長は十メートル程あるかもしれません。人や仔馬なら、一飲み出来てしまうでしょう。
兄妹はいち早く気づきましたが、魔法使いは気づいていません。
魔法使い以外、誰も動かない時間がしばらく続いて、
「わかったあ! 二人とも、この円の中に片足をいれて」
魔法使いはワクワクしながら、地面に円を描きました。
仔馬は言われたとおり、前足を一方だけ円の中に入れました。
魔法使いが、円の両隣を杖で丁寧にトントンと叩くと、円の中に入れた足から表面だけがチリチリと燃え広がっていき全身を包みました。それが焼け落ちると、兄妹たちは人間の姿に戻っていました。
「出来た! やった!」
その時、魔法使いはやっと狼の存在に気が付きました。
「わあっ、大きな狼! ……って、ヴォルか。この子たちを迎えに来たの?」
「え、魔法使いさん、俺らのお父さんのこと知ってるんですか?」
ヘンゼルが驚いて、魔法使いに聞きました。
「そりゃあ、村に戻れなくなった君たちのママとパパに、かまどのある家をあげたのは僕だからね」
ねえ、とヴォルに投げかけると、ヴォルはゆっくりとうなずきました。
「今日は、手伝ってくれてありがとう。さすが、二人の子供だね。
それで、パンのお代にはなったかな?」
「もちろん! とっても面白かった!」
グレーテルが、満面の笑みで言いました。
「それはよかった!」
魔法使いはそういうと、三人に別れを言いました。
ヘンゼルとグレーテルはヴォルの背中に乗って、魔法使いが見えなくなるまで手を振り続けました。
SF国を囲む森の奥には、大きなかまどのあるパン屋があります。
いつもはママがパンを作り、二人の兄妹がパンを売り、狼男のパパが店番です。
でも時々狼の娘が店番をしているときに訪れると、面白い事と引き換えに、おいしいパンを作ってくれます。
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