ヘンゼルとグレーテル 中編
兄妹が目を開けると、大きな畑の端でした。目の前には、みすぼらしい服装のとても美しい女性が立っています。
「紹介するね、彼女はシンデレラ。今日の舞踏会に招待されていたのに、継母の言いつけがあるからって断っちゃったくらい真面目な子なんだ」
「こんにちは」
シンデレラが丁寧に挨拶すると、兄妹も慌てて挨拶をし返しました。
「畑いっぱいあるカボチャを馬車にしようと思っていたのに、継母の言いつけで全部収穫しちゃうくらい真面目な子なんだ……」
はあ、と魔法使いがため息をつきます。
「でも、準備ができたから今から君を、舞踏会に連れていくね!」
魔法使いが杖を構えますが、シンデレラは、
「いえ、私は継母様に舞踏会に行かないように言われているので」
「それ、嫌がらせだってー! ほんとは舞踏会、行きたいんでしょ?」
魔法使いが泣きつくと、シンデレラのすまし顔を少し崩れます。
「ほら、やっぱり行きたいんだ! 安心して。ちゃんと舞踏会に間に合わせるよ。
それが僕の仕事だもん!」
魔法使いは、杖を振ります。
「まず、ドレス!」
杖をシンデレラに向けると、シンデレラの体が光に包まれました。その光は形を変え、光がおさまると、シンデレラは水色のドレスを着ていました。足にはガラスの靴が履かされています。
一瞬の出来事に、兄妹は目を輝かせます。
「次は、馬車!」
魔法使いは、パンを乗せたお盆を地面に置いて、お盆を杖で叩きます。
するとパンは膨らみ、シンデレラの背丈を超えたところで止まりました。その表面に切れ目が生まれ、扉や窓ができ、パンの下には大きな車輪ができ、馬車が生まれました。
「わあ、なにこれなにこれ!」
グレーテルは初めて見る馬車に大はしゃぎしました。
ところが、シンデレラを迎えるために馬車の扉が開くとその中からたくさんのクリームがあふれてきました。
「あ、あたし、おいしいと思って、ブールにカスタード入れちゃったんだ……。」
グレーテルは焦って、魔法使いに謝りました。
魔法使いは、大丈夫と一言言って、手の上で杖を転がしながら、考えます。
「えーとえーと、あ、そうだ! えい!」
魔法使いが杖を振ると、クリームはビロードになりました。あふれてしまったものはカーペットのようにまっすぐ伸び、中に残っていたものは座席を包みました。
「よしよし! 最後に馬車を引く馬に、君の友達のネズミくんたちを……」
「いませんよ。今日はいかないからと言って、うちに帰らせました」
シンデレラがすまし顔で言うと、魔法使いは信じられないという顔でシンデレラを見ます。
「何してるの!君は舞踏会に行くんでしょ!?」
えーとえーとと、魔法使いは考えます。
「なにか、二匹、生き物がいれば……」
魔法使いのつぶやきに、ヘンゼルは、なんだか嫌な予感がしました。
魔法使いの目が、兄妹に留まりました。
「君たち、ほんの少しだけ、馬になって!」
えい!と掛け声を上げて、魔法使いは兄妹に杖を向けました。
意識が遠のいたと思うと、兄妹は二匹の仔馬になっていました。
グレーテルは自分の姿に気付いて、ワクワクしているようですが、ヘンゼルはそうではありません。
「ごめんね、シンデレラをお城に送ったら、元に戻すから」
シンデレラと馬車に乗り込んだ魔法使いは、申し訳なさそうに言いました。
グレーテルは鼻息荒くヘンゼルを見ました。何を言っているか分かりませんが、やる気に満ちていることは分かります。仕方がないので、ヘンゼルも魔法使いを振り向いて、行くことを示しました。
「ありがとう! それじゃあ、お城まで! 舞踏会まであと少ししかない!」
魔法使いは馬車の床をトントンと杖で叩くと馬車はふわりと宙に浮かびました。
兄妹が足を踏み出すと、馬車は滑らかに走りだしました。
兄妹が引く馬車は、空中を進んでいき、すぐにお城につきました。
空中に留まり、ビロードのカーペットを階段状にしてお城の中まで繋げました。
「じゃあ、いってらっしゃい、シンデレラ!」
魔法使いが、シンデレラの背中を軽く押しました。
シンデレラは、大勢の注目を浴びながら、階段を下りていきました。
途中、馬車を振りかえって、魔法使いと、兄妹のことを見て深々とお辞儀をしました。その顔は、いつものすまし顔ではなく、少し頬が緩み微笑んでいました。
そして、軽い足取りで、階段を駆け下りていきました。
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