新米魔法使いのSF国紀行
ニョロニョロニョロ太
ヘンゼルとグレーテル 前編
SF国を囲む森の奥には、大きなかまどのあるパン屋があります。
いつもはママがパンを作り、二人の兄妹がパンを売り、パパが店番です。
今は、ママとパパが畑にデートに行っているので、幼いヘンゼルとグレーテルが店番をしています。
「あーあ、ひまだなあ」
グレーテルがカウンターに頬杖をついて、つぶやきました。
パンは棚にたくさんありますが、お客さんは一人も来ていません。
「グレーテルも、店の掃除手伝えよ」
店の床をほうきで掃きながら、ヘンゼルが言います。
「どうせだれも来ないじゃん」
「来てほしいのか、来てほしくないのか、どっちなんだよ」
グレーテルの言葉に、ヘンゼルはため息をつきます。
「どうせ来るなら、とってもおもしろいことをしてくれる人が来てほしいな!」
「そんな都合のいい人来るわけないだろ」
「そうだねぇ、なかなかハードルの高い望みだね」
突然、お店の中で、知らない声がしました。
ヘンゼルとグレーテルが慌てて店内を見回すと、カウンターの奥のかまどの前で大きな黒い帽子を被った緑髪の魔法使いが火にあたっていました。
グレーテルが、魔法使いに聞きます。
「どうやってここに来たの?」
「それは、瞬間移動魔法で……」
ここまで言って、魔法使いはピタッと止まってしまいました。
どうしたのだろうと兄妹が顔を見合わせ、魔法使いの顔をのぞき込んだ時、はじかれた様に魔法使いが立ち上がりました。
「ああ―――――!!!忘れてたあ―――――!」
ゴツンと兄妹と魔法使いの額がぶつかってしまいました。
「いたたたた……って、そんな場合じゃない! 君のママとパパは!?」
「い、今、畑にいるよ」
じゃあ、と魔法使いは言うと、カウンターの外に出てから、
「パン下さい!」
兄妹はぽかんとしていましたが、注文を受けたことに気付いて、額を押さえながら立ち上がりました。
ヘンゼルが魔法使いに聞きました。
「どんなパンですか? と言っても、今、フランスパンしかないんですけど」
「何その品揃え。よく見たら棚にあるの、全部フランスパンじゃん!」
魔法使いが、驚いて突っ込みます。
「フランスパンじゃダメ?」
フランスパンを持ってグレーテルが言うと、魔法使いが答えます。
「もっと丸い形がいい。カボチャみたいな」
「丸いパンなら、ブールはどうですか?」
ブールというのは、フランスパンの一種で丸い形のパンです。
「フランスパンってことは、今あるの?」
「ないです。今あるのはバゲットだけです」
「だから、なんなの、その品揃え!」
「じゃあ、あたしがつくるよ!」
グレーテルが、自分のエプロンを持ってきて、言いました。
「君、パン作れるの?」
「うん! 時々失敗するけど……」
グレーテルの言葉を聞くと、魔法使いは
「じゃあ、僕が手伝うよ! 一緒に作ろう!」
杖を握りしめて言いました。
それから、時間が必要な時は魔法使いが魔法を使って時間を進めたり、ヘンゼルは道具やかまどの準備をしたり、グレーテルがおいしいパンを作れるように、サポートしました。
数十分後、かまどから引き出すと美味しそうなブールが出来上がっていました。
「わーい、できた! ありがとう! お代は……」
魔法使いが言うのを、グレーテルが遮りました。
「お代は、何か楽しいことがいい!」
「こら、またお前は……」
ヘンゼルはグレーテルを叱ります。
「いいよ! 僕ちょっと急いでいるから、ちゃんと楽しいかわからないけど。
僕についてきて!」
魔法使いはそういうと、パンを載せたお盆を持って、杖を振りました。
杖を床に叩きつけると、強い風が巻き起こり、景色が一瞬で流れました。
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