第18話 偽装
この作戦は効果てきめんでした。会社の昼休みに何気なく、最近彼の話をあまりしないね。ここのところ、デートしていないの?とわざとらしくエリナに聞いてみました。
するとエリナは、そうなんです、聞いて下さいレイコさん!最近カレったら変なんですよ。と、せきを切ったようにしゃべりだしました。
最近カレったら、一度約束してもドタキャンが多いんです。以前は全くそんなことなかったのに。何か私に隠してる風なところもあるし・・・
エリナは本当に心配で泣き出しそうな表情で、私をすがるように見つめてきました。あぁ、うるんだ目で可愛い・・・、ごめんねエリナ、悲しい思いをさせて。と、心の中で思いながら、彼、どうしたんだろうね?と心配そうに真剣な表情を浮かべ、エリナに答えました。
きっとあと半年で卒業だし、学生時代にしておきたいことで忙しくなってきたんだよ、と私は言いました。
エリナは、違うんです。これ、女の直感ってやつなんですけど、きっと他に誰か・・・と言いかけて、言葉にしてしまうと本当に現実になってしまうことを恐れてしゃべれなくなった、という感じで黙り込みました。
私はエリナのうるんだ可愛い猫目をのぞきこみ、小さな声で浮気しているっていうこと?と聞いてみました。
エリナは黙ったまま、こっくりと小さくゆっくりうなずきました。
今までのエリナの話からカレのことを想像すると、浮気をするタイプじゃないんじゃないの?と私はエリナに聞きました。
そうなんです。今までそんなことはなかったんです。優しくて、いつでも私のことを最優先にしてくれて。でもこのひと月くらいでがらっと様子が変わってしまったんです。全部が全てっていうんじゃ無いんですけれど。私とのデートの約束に関しては、異様にドタキャンが増えてその理由も要領を得ないんです。それでも不思議と私のことが嫌いになったという感じは受けないんです。何か、他の女性に支配されているっていうか・・・、とエリナはぽつりぽつりと感じていることを話してくれました。
あぁ、この子はやっぱり勘が鋭い。学力と言う意味での頭はそんなに良くないけれど、人を観察し感情を推察する能力は本当に高いわ。私は心の底から感心しました。
そして私は、そんなに気になるなら直接聞いて確かめてみたら良いんじゃない?って助言しました。するとエリナは予想もしていない反応を示しました。
はい、でも良いんです。もしカレに他に好きな人が出来ちゃったんならそれはそれで。心配しないで下さい、カレと別れたからって会社に来られなくなっちゃうとか、そんなダメージは受けないですから。きっと立ち直って前よりばりばり働いちゃうかも、とエリナは精一杯の作り笑いをしながら大きく伸びをして答えました。
おいおいそれじゃあ計画が台無しなんだよ。泣き叫んででもカレにすがってくれなきゃあ、カレの浮気相手が実はレイコさんだったっていうことのインパクトが全く無いじゃあないか。
でもエリナはカレと別れたくないんでしょう?だったらそんな浮気相手に負けないで、しっかりカレをつなぎとめておかなくっちゃ。浮気相手に心当たりは無いの?と、全ては自分の計画の上でのことなのに、エリナを弄ぶような言動をする自分に少しうっとりしながらエリナに聞きました。
はい、心当たりはありません。でも何となくカレが良いように支配されている感じを受けるので、大学の同期や仲間と言うよりは年上の女性のような気がします。とエリナは良いところを突いた予想を話してくれました。
ふうん、じゃあ私が探って調べてあげようか?と私はエリナに持ちかけました。
えっ、レイコさんが・・・?と、エリナはとても驚いた表情を浮かべて私を見つめてきました。
それもそのはずです。今まで自分がカレの話をしてもまるで乗ってこなかった、というかむしろその話題を避けていた風だったレイコさんが、カレの浮気相手について調べてくれると提案してきてくれている。どうしてそんな心境の変化があったんだろう?エリナはそんな風に疑念を抱いている様でした。
うん、今までエリナの彼のことは正直そんなに関心無かったんだけれど、それはエリナとエリナのカレが問題なくうまくいっていると思っていたからだよ。大事なエリナが、こんなに不安で苦しんでいるのを見たら、私もじっとしてはいられない。
私はエリナが抱いた私の心境の変化に対する疑念を払しょくするために、そのようなしらじらしい熱弁を振るいました。
エリナは本当に私が自分のことを心配してくれていると信じ込んだらしく、レイコさん、私のために親身になってくれて本当にありがとう。でも、これは私とカレの問題だから、自分で何とかします。と、エリナは私の提案に対して遠慮をしました。
私はもうひと押しと思いました。
エリナ、そんな風に遠慮しないで。エリナの役に立ちたいの。私は熱弁を続けました。
それに、エリナのカレの浮気相手って、年上みたいって言っていたでしょう。つまり私くらいの年代よね。どんな奴が、エリナの大事なカレ、しかも年下の男の子にちょっかいを出しているのか見てみたい気がして・・・と、私は興味津々な振りをしました
結局エリナは私の申し出を受けてくれることになりました。でもどうやって調べるつもりですか、とエリナは私に聞いてきました。
別に調べなくても全部わかっているのよ、エリナ。と心の中でつぶやきながら、カレの写真と通学ルートを教えてちょうだい。あと、エリナとの約束をドタキャンしてきたらそのタイミングですぐに私に知らせて。一回じゃうまく行かないかもしれないけれど、そのうちしっぽをつかんでやるわ、と私はエリナに力強く答えました。
エリナは純粋にレイコさん、探偵みたいですごい、と驚きながら、頼りになると喜んでくれました。そして本当は全く必要のないカレの写真と通学ルートをメールで送付してくれました。
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