第17話 籠絡(ろうらく)
(籠絡:他人をうまくまるめこんで、自分の思うとおりにあやつること)
エリナの彼との関係は一定のペースで続いて行きました。深くなり過ぎないように、それでいて疎遠にならないように・・・。日常の習慣のように永遠に続いて行くように、私は雰囲気、タイミングに細心の注意を払いました。
エリナの彼が罪悪感を覚えてやめてしまわないように。逆にエリナの彼が私に夢中になってのめり込んで、エリナと別れてしまわないように。どちらにしてもそんな状況になってしまったらこの計画の意味がありません。
淡々と関係が続いて行く中で、ある日ある時、急にエリナの前にこの事実が突き付けられる。それこそが私が考え抜いた計画なのです。
一方で私はエリナの様子にも細心の注意を払っていました。女性の勘と言うのは鋭いものです。男の浮気については絶対的な証拠が無くても彼の行動や言動、雰囲気やそぶりでわかってしまうものです。ましてやエリナの彼はまだ学生と言うこともあって、そういったことをばれないようにする気配りが甘いところがありました。
私がからんでいないところで浮気がばれて、もう二度としないよ、じゃあ今回だけは許すわ的な感じで二人の間で終わって解決してしまったら計画が台無しです。
私はエリナが彼の行動を怪しんでいないか、それとなく探るような話題をエリナに振ってみました。あまり露骨にやるとかえって私の言動を怪しまれてしまうので、これも細心の注意を払って、最近彼とはどう?みたいな会話を続けました。
以前はエリナの時間を好きにしている彼の話なんか聞きたくないモードだったのに、最近はこちらから聞いている、という真逆の状況に対して、エリナは特に不信がってはいませんでした。
純粋にカレとの関係を心配してくれていると、百パーセント、エリナは私のことを信じていたのだと思います。むしろ今まで自分のカレについては関心を示してくれなかったレイコさんが話を聞いてくれるようになった!的な感じで自分のカレについて喜んでいろいろ話してくれました。
それによると、
エリナの彼は相変わらず学生生活もあとわずかだから、今の仲間との時間をメインにしていて、あんまり自分と会ってくれないんです。でも何か前より少し優しくなったんですよ。ほら、レイコさんに頼まれたキーホルダーの写メ、カレがなかなか持ってきてくれなくて遅れちゃったでしょう。あのときなんか、食事までおごって謝ってくれたんですよ。と、何も疑わずに、本当に嬉しそうに話してくれました。
エリナ、それはね、後ろめたいことがあるからだよって私は思わず言いそうになってしまいました。でもエリナのそんな純真無垢なところがまた可愛い。私はそのようにも考え、エリナに対する独占欲をさらに強めてしまうのでした。
そしてそのような情報収集のもう一つの楽しみは、私とエリナの彼との情事の前後で、エリナとエリナの彼がどんなふうにしていたかを知ることでした。エリナから、昨日は仕事の後でカレとラブホデートしたんですよと照れながら話してくる報告も、以前ならそんな話は聞きたくない、とスルーでした。
それが今では、そうするとエリナの彼は私とした次の日にエリナとしていたんだ・・・
あるいはエリナとした次の日に私としていたんだ・・・、という事実が私を喜ばせ、そして興奮させました。
エリナも、エリナの彼も気づいていない私だけが知っている人間関係の相関図。私は自分がとても特別な存在のように感じていました。
また時にはエリナから、昨日はラブホデート、という情報を得た時にすぐにエリナの彼を誘い、昨日はエリナと触れ合っていた男の身体と今、私が触れ合っているという想像を抱きながら、喜びを感じていました。
そのようにエリナの彼と情事を重ねながら、エリナの様子を観察する。そんな状況がひと月くらい続きました。三人の、相関図の全ては私だけが知っている。
そのような優越感があっても、エリナからエリナの彼との日常の出来事を聞くと、激しい嫉妬、悋気を覚えずにはいられませんでした。
そして私は、二股を続けるエリナの彼に対して許しがたい感情を覚えるようになってきました。おまえは、エリナを裏切り続けていることに罪悪感を持たないのか。そう問いつめてやりたい衝動に駆られました。
そして自分のカレが浮気をしているのに気付かない鈍いエリナに対しても、苛立ちのようなものを感じ始めていました。
あなたのカレは、あなたを裏切って私と情事を続けているのよ。そんな男は可愛いエリナにふさわしくないわ。今すぐ別れるべきよ。
そう言ってやりたい衝動に駆られました。
そしてそのうち、自分が仕掛けたにもかかわらず、浮気をし続けるエリナの彼が本当にエリナにふさわしくない、レベルの低い男に思えてきました。
一度そのような考えを持つと、エリナの彼の一挙一動や発する言葉の全てが愚鈍で意味のないことのように思え、エリナの彼自身が考えの浅い人間のように感じるようになり、嫌悪感すら覚えるようになりました。
ひょっとするとこの男を寝取ったことはそれほどエリナにとって衝撃的な出来事では無いのではないか。私がエリナに、実はエリナの彼と頻繁に寝ているの。と言ってもその瞬間は驚き、私に対して憎しみを抱くかもしれないが、この男のレベルの低さにエリナ自身も気付き、あっさり別れてもっとレベルの高い男を捕まえるかも知れない。いや、とびきり可愛いエリナのことだ。捕まえることが出来るかも知れないでは無くて、確実に捕まえることが出来るだろう。この愚鈍な男よりよっぽどましなやつを。
そうすると私はエリナに、カレのレベルの低さを教えてしかもその後始末もしてくれたある意味有難い先輩、で終わってしまうかもしれない。
そうするとエリナの記憶を独り占めどころか、記憶にも残らないのでは無いか。それでは今まで費やした時間と労力が全く意味の無いものになってしまう。
それでも私は落胆したり、あせったりしませんでした。私はそうなった場合、別の計画に切り替えることも想定していたのです。うすうすそうなるんじゃないか、そういう予測もしていました。
私はエリナの彼が、エリナ以外の女と会っていることをエリナに気付かせるための情報インプットを始めました。エリナとエリナの彼が約束している予定にわざと重なるように、エリナの彼に私との予定を無理やり入れさせる。もちろん以前は、私はエリナの彼にそのような無理は言いませんでした。むしろ彼女との時間を大切にしてあげてね、という態度を取っていました。
それが今回の路線変更から、むしろ予定が重なるように約束を強引に入れようとする、という態度に変更したのです。
エリナの彼が、別件があって困ったな、と言っても強引に無理やり私との予定を入れさせる。
エリナの彼から無理だと言われても、私を単なる浮気相手として扱っている、あくまで本命は彼女のエリナと考えている、という私に対する負い目を感じているところに付け込むように、私との予定を優先させました。
時々私は、ふうん、彼女との予定が優先かぁ。しょうがないよね、私は単なる浮気相手のおばさんだし。そんなに大事にされている彼女を一目見てみたいなぁ。と露骨にゆするような言い方をして私との約束をねじ込みました。
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