第4章 成就
第16話 略奪
エリナの彼は私を見つけた安堵と、気疲れと緊張から一気に解放された喜びで、麗子さん、ずっと探していたんですよ!と、高いテンションで詰め寄ってきました。
この間は変なことをしてすみません。あの時お互い慌てていたから、キーホルダー、取り違えちゃったままですよね。麗子さんのキーホルダーを返しますから、僕のキーホルダーを返して下さい、とエリナの彼はお願いしてきました。
私は、そうね、取り違ったままになっているわね。でもごめんなさい、今は持っていないからまた今度会う時で良いかしら?いつも持っているようにするから、とじらし感たっぷりで答えました。
エリナの彼は、とても困ったという表情を浮かべ真顔になりました。麗子さん、実はちょっと急いでいるんです。出来れば明日にでもここで受け取りたいんですが・・・と、決して彼女から催促されているからという理由は言わずに早く返してくれるようにお願い、というよりは懇願してきました。
私は、明日から仕事で出張に出るから、このホームには来られないわ。来週の月曜には普通に出社するから、その時にしましょう。と嘘の理由でキーホルダーを返すのを引き延ばす提案をしました。
その時のエリナの彼のあせりようったら。そ、それじゃちょっとまずいんだよな・・・、麗子さん、わがまま言って申し訳ないけれど、何とか明日、このホームに寄って、返してもらえないかな。今度食事か何かでお礼をするから、お願い!と、手を合わせてさらに懇願して来ました。
じゃあ今から一緒に私の家まで取りに来る?
私は熟考して考え抜いたタイミングとセリフをエリナの彼にぶつけました。
エリナの彼は一瞬驚いた表情を浮かべ、少し考え、そうさせてもらえると大変有難い、と返事をしました。
落ちた、と私は思いました。
普通の状況だったら、ただ家に誘ってもエリナのことを考え、躊躇して踏みとどまるだろう。でもこの状況であれば、エリナのためだからこそ早くキーホルダーを取り戻したい。今家について行けば、確実に取り返せる。そういう状況を作り出すことによって、エリナの彼の判断力を少し普通ではない感覚に追い込むことが出来たのです。
全て私の計算通り、シナリオ通りです。
私はエリナの彼と自宅のマンションまで一緒に帰りました。部屋のドアの鍵を開けて電気を付け、私が室内に入って行くとエリナの彼は迷ったように玄関のところで立っていました。部屋に上がって良いのか、ここでキーホルダーを受け取って帰るべきなのか、迷っているようでした。
私はエリナの彼のそんな様子を見て、お茶でも入れるから上がって待っていて、と声をかけました。エリナの彼は自分の決断でなく、声をかけられて部屋に上がった、という流れになったことに少しほっとしたようでした。
エリナの彼は部屋のソファーに座り、返されたキーホルダーを大事そうに眺めていました。その様子は、意識して部屋の中は見ないようにしているようにも感じられました。
この間の食事の後、私を抱き寄せて唇を重ねてきたあの大胆な行動を取ったことをどう思っているのか、私は確かめてみたくなりました。
キーホルダー、間違えて持ってきちゃってごめんなさいね。彼女に怒られちゃったかしら?と私は聞いてみました。
いや、彼女にはばれていないから。それにばれたって別に問題ないですよ。エリナの彼はそんな強がったうその説明をしました。
本当に?じゃあキーホルダー入れ替わったままにしておいてもらえばよかったかなぁ、と私は少し意地悪く言いました。そして本当はわざとキーホルダーを取り違えたのよ、と付け加えました。
エリナの彼は、えっと驚いてどうしてそんなことを・・・、と聞いてきましたが、私はその質問には答えずに、真剣な眼差しでじっとエリナの彼をみつめました。長い間・・・。
そこから先、エリナの彼と関係を持つのは予想していたより簡単でした。
エリナの彼は黙って私に近付いて唇を重ね、ソファーの上で私を抱きしめてきました。私は意地悪く、このことも彼女に言えるの?と聞きましたが、エリナの彼は聞こえないふりをして行為を続けました。
そうなっていくことは私の想定内でした。
いくらエリナのような可愛い女の子と付き合っていたとしても、男の性として他の女性とも付き合ってみたいと思っているはず。私は計画通りエリナの彼と関係を持ちました。
もちろんエリナの彼の本命はあくまでエリナで、私は単なる浮気相手という関係で。
終わった後に、自分には彼女がいるのに、すみません。我慢が出来なかったんです・・・、とエリナの彼は正直に本命は今の彼女、つまりエリナだということを明確に伝えてきました。考えようによってはずるいなぁと思いつつ。
別にいいのよ、わかっているから。私はそう言いながら、エリナの彼との関係を終わりにしないように、最新の注意を払って続けていかなければ、という決心を心の中で強くしていました。
エリナの彼を寝取って、エリナの人生にとって忘れられない女になる、という目的とは別に、私の中で予想していなかった感情が芽生え、自分自身で驚くことになりました。人間の根底にある感情とは本当に予想できないものだ。自分自身のことだとしても。それがその時私が得た教訓でした。
私はこんな感情を抱くようになりました。
エリナに触れた指が、今まさに私の身体にも触れている・・・、エリナとひとつになったものが、今まさに私ともひとつになっている・・・、そう思うと私は今までの性体験では感じたことの無い大きな興奮を覚えたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます