第14話 差替

 その日私はエリナの彼を連れて、時々会社の同僚と行く、シックで高級な照明やインテリアをそろえたダイニングバーに行きました。そして最初にシャンパンでキーホルダーの完成に乾杯し、エリナの彼はピルスナー系のビール、私は果実系のカクテルをオーダーしました。そして前菜に季節野菜のスティックと、バーニャカウダーを注文してつまみ代わりにシェアしました。

 エリナの彼は、さすが麗子さんですね。素敵なお店を知っていますね。大人の人が行くお店は違うなぁ。僕なんかまだ学生だから居酒屋か、行ってもカフェバーくらいです。と言って照れ笑いを浮かべました。

 お店の照明の薄暗さとテーブルに置かれたキャンドルの炎のゆらぎのせいでしょうか、エリナの彼はアルコールと言うよりお店の雰囲気に酔ったようでした。

 私は酔ったふりをして今までの恋愛体験をエリナの彼に話す、というより告白するといった雰囲気で語りました。もちろんほとんどが嘘で、とにかく今はフリーでさみしい思いをしているという印象と、恋愛対象の年齢にはこだわらない、つまり年下でもオッケーという恋愛観をエリナの彼に植え付けました。

 エリナの彼は、メインディッシュの魚料理のムニエルとスパイシーなペペロンチーノスパゲッティがサーブされたころにはだいぶアルコールがまわっていました。

その酔いのせいか、心の中で私と寝たいと思っていることを悟られちゃいけないと考え、必死に欲望の表情を隠そうとしている様子が、逆に手に取るようにわかるようになっていました。


 私たちは食事を終えてレストランを出て、駅までの川沿いの小路をゆっくり歩きました。お酒、だいぶ飲んじゃったから外の空気が涼しくて気持ち良いね、と言って私はエリナの彼に、キーホルダーを見せて、とお願いしました。

 エリナの彼からキーホルダーを受け取ると、今日アクセサリーショップで受け取った自分のキーホルダーをショルダーバックから取り出し、そのうちの片方をエリナの彼のキーホルダーと組み合わせてハートを作りました。

 色、違うけどぴったりだね。あ、当たり前か。と言って私は出来る限りの可愛くてさみしげな表情を浮かべました。

 するとエリナの彼はそこが外であることも構わずに急に私の肩を抱き寄せ、身体を引き寄せて抱きしめ、唇を重ねてきました。その拍子に私はエリナの彼のキーホルダーと私のキーホルダーを落としてしまい、金属とアスファルトがぶつかって大きな高い音が響きましたが、エリナの彼は構わず私を抱きしめ続けました。

 私は一瞬体全体をびくっとさせ、その後は徐々に体の力を抜いてエリナの彼に身を任せるような感じを演出しました。

 そしてしばらくしてそっとエリナの彼から体を離し、落としたキーホルダーを拾ってその一つをエリナの彼に渡して、彼女が怒るぞ、と言ってエリナの彼の胸をこぶしで軽く叩き、小走りで駅に向かいました。

 エリナの彼は自分で自分がしたことが理解できない感じで呆然とその場に立ちつくし、私の後を追って来ることすら出来ませんでした。

 私は駅に着いて電車に乗り、笑いをこらえながら心の中で呟きました。


 エリナの彼を確実に落とすことが出来た。

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