第09話 憤悶(ふんもん)
(憤悶:いきどおり、もだえること)
それからしばらくは、自分が現実から一歩離れた場所にいるような、まるで蜃気楼の世界に生きているような感覚の日々を過ごしていました。海デートの時のあの感情。あの強烈な感情、悋気が私の精神を支配し、殺意を生み出したという体験は、私の人生観を変えてしまうほどでした。
あんな感情を生み出すもとが私の中にあったなんて。あんなことを考え、自制がきかなくなる、そんな人間だったなんて。自分の心の奥深くには何がうずまいているのか。
もちろんそんなことは百パーセント理解しているつもりではありませんでした。
それでもあそこまで自分の知らない自分が、自分の中にいたなんて。驚きを感じ、またいつか同じことが起きるのではないかという恐怖を感じました。それと同時に、そこまでエリナを独占したいという感情が私の体の中に深く根をはっているということを再確認できた、という納得も感じていました。
私は真剣にエリナから離れることを考え始めていました。
異動してからまだ半年足らずなので、通常のジョブローテーションによる異動はありません。自分から希望を出すしかないのですが、まさか後輩のエリナのことが好き過ぎて、独り占めしたくて殺しちゃうかもしれないので異動させて下さいなんて、言えません。
それに何か理由を見つけてうまく異動できても、同じ会社にいる限り会う確率はゼロではないし、近況の噂話や風の便りは中途半端に伝わってきて、エリナに対する想いが今以上に増幅されてしまうかもしれません。
そんなことならいっそ、転職した方がいいのかも。その方が面倒くさい理由をわざわざ考えたり、中途半端にエリナの近況が伝わってくるより、何倍もすっきりする、そう考えるようになりました。
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