第06話 錯乱
彼がいるって宣言しちゃえば面倒なことに巻き込まれなくなるんじゃないの?と助言したこともありました。
でもフリーな感じで男の人と駆け引きするのって楽しいじゃないですか。ってエリナはさらっと言ってのけました。そうです、エリナはそういう小悪魔的なところがあったのです。
エリナには同じ高校の同級生だったというまだ大学生の彼がいるのです。詳しくは聞いていないですが、二人でデートはもちろん、旅行にも行ったりしているようでした。
昨日は仕事の帰りにラブホデートして帰りが遅くなっちゃったとか、今週末はちょっと遠出してお泊り旅行なんですよとか、いらない報告を良くしてくれました。
そんな報告を聞くたびに私は気が狂うほどの悋気を感じていました。
エリナと、エリナの彼との出来事と言えば、こんなことがありました。
エリナが、目を真っ赤に充血させた上に、荒れた肌を隠すためにマスクをして会社に出社して来たんです。
私はびっくりして、どうしたの?って聞きました。そうしたら、昨日は徹夜しちゃって。でも今日は大事な報告を課長にしなければいけないから休めなくって。と言うんです。
私も徹夜くらいしたことはあります。オールで遊んだことだってあります。でもそれだけでは翌日にこんなにぼろぼろにはならない。いったい何があったの?
エリナが言うには、最近カレとすれ違いが多くって、もうダメかなって思っていて。私はそれでも仕方無いかなぁ、なんて思い始めていたんです。すぐ次の彼を見つけられる自信もあったし。それで電話で、少し距離をおこうかってカレに話をしたら、真夜中だっていうのに車を飛ばして私の家に来たんです。
エリナとの時間を大切にしなくてゴメン、これからは心を入れ替えてエリナのことを大事にするからって泣きながら謝るんです。とエリナが教えてくれました。
はぁ?なんだ、その男は?そんなやつ今すぐ別れちまえって私は心の中で大きく叫んでいました。
そもそも翌日に仕事のあるエリナに対して、 学生の分際で、てめぇのめそめそしたわざとらしい態度を見せるためにエリナを徹夜させて、大事な時間を奪って、私は悔しくて情けなくて気が狂いそうでした。
エリナには、彼もエリナとは絶対に別れたくなかったんだよ、これで身に染みたんじゃない?なんてありきたりのコメントを伝えたんですが、内心は怒りで爆発でした。
エリナの大事な時間を奪って、しかも翌日にこんなダメージを残させやがって。死んでわびろ、と心の中で叫んでいる私でした。
エリナの彼には、こんな風にエリナの時間を無駄に浪費させる傾向があるように私は感じていました。
またそれが私の悋気を深くさせていきました。本当にくだらないことで私の大事なエリナの時間を浪費させるんです。
ほら、これ今度の就職活動のために読んでいるんだ。エリナも読んでみろよって、エリナに自分が受ける会社の社史の分厚い本を薦めたり。またエリナも馬鹿正直にそれを読んだり。もうそんなやり取りを聞かされるだけで、私ははらわたが煮えくり返る思いでした。でも時間の浪費だけだったらまだ可愛いもんです。
エリナはこんな告白話もしてくれました。ふたりで軽くお酒を飲んでいた時だったと思います。
うちの父はカレとお付き合いすることは特に口を出さないんです。旅行してお泊りしても、もう大人だからって。
ふうん、寛大なお父さんなんだねって私は言いました。確かエリナのお父さんは、鉄道マンだと聞いた記憶があります。鉄道マンといっても運転手や駅員ではなく、設備の保守やメンテナンス関係だったと思います。
でも、結婚前に妊娠だけはだめだよって、父に良く言われるんです。私ってすきがありそうに見えるからかなぁ?酔ったせいか、少し頬をピンクに染めて照れながらエリナは言いました。
酔った勢いもあり、私は少し突っ込んだ質問をしてみました。普段ならこんなことは聞かないんですが。どうしてかというと、エリナとエリナの彼との間のことを聞いてしまうと、後で悶々と悋気することが多いからです。でもその時は何故か突っ込んで聞いてしまいました。
エリナの彼は、そういうことに協力的なの?
エリナは普段の私の口からは聞かれないような質問が発せられたことで一瞬きょとんとして、やだぁ、レイコさんのエッチ!と言って私の肩を軽く叩きました。でもそう言いながら少し嬉しそうに話し始めました。
実は私、ピルで避妊しているんです。その方が、カレが良いっていうから・・・、その、ほら、付ける間ってちょっとしらけちゃうし、直接の方が、男の子はもちろん女の子も良いじゃないですか。ってやだなぁ、こんな話、恥ずかしいなぁ。ここだけの話にしておいてくださいね!
私はへぇ、エリナがそこまで彼のために尽くしているなんて意外!と驚いたふりをしましたが、内心は何でそこまで彼に尽くさなきゃなんないんだよと、怒りがマックスになっていました。
そんな風にエリナが彼のために時間や労力を費やして、身を捧げているような話を聞くと、私は悋気で居てもたってもいられなくなっていました。
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