第04話 可憐
彼女はその事業所の近くにある女子短大を卒業して就職二年目の、まだ新人独特の緊張やフレッシュさが抜けきっていない感じの若い女子社員で、仕事も補助的なことをして勉強している最中でした。
エリナは私が今まで出会った女性の中で、間違いなく、一番、可愛い女性でした。
美人とかきれいとかではなく、可愛い、のです。
私はエリナの笑顔を見るとそよ風に気持ち良く揺れる可愛い花を連想し、エリナのしぐさを見ると草原の合間からひょっこり頭を出す哺乳類の小動物の動作を連想しました。
そんな暖かくて周囲全てを癒す雰囲気、空気をまとった女の子でした。
可愛いといっても、小さくて子供っぽいというのとは全く違います。私も身長は百六十とちょっとあり、女の子としては決して小さい方ではありませんが、エリナは私より少し背が高かったと思います。
でも身体の線は異常なほど細く、ものすごく痩せていました。
人によってはあの子は摂食障害で拒食症なのではないかと思う人もいたようです。本人もそう思われてしまうんじゃないかって気にしていました。
でもそんなことは一切なく、むしろ大食いで、いくら食べても不摂生しても太らないんですと本人は言っていました。
中学生の時に、いくら食べさせても全く太らないので、消化器系に何か病気でもあるんじゃないかと母親が疑って、医者に連れて行かれたこともあったそうです。
世の女性が聞いたら全くうらやましい限りです。そんなに細いのに、胸はけっこうありました。
身体のバランスは、モデル体型というんでしょうか。顔はとっても小さく完璧な八頭身でした。その小さな小さな顔に、大きな猫目がくりっ並んでいました。
瞳は明るい茶色、鼻は小さめですが適度な高さでちょっと上向きで、小さく控えめな穴が可愛く並んでいました。口は小さな三角形のアヒル口でした。
そんな感じのひとつひとつが可愛いらしい顔のパーツが、小さな顔の中に絶妙の位置で配置されていました。
全体的に色素が薄いのか、肌は透き通るように白く、胸まであるセミロングの髪の毛も染めてしばらくたつと、ものすごく明るい色に抜けてしまって金髪のようでした。
そんなときはヤンキーみたくなっちゃいましたと言ったり、染めた直後は真っ黒に近くなるので、私更生しました、とか言ってエリナは無邪気に笑っていました。
そんな全体の雰囲気トータルが混ざり合って可愛いオーラを全開で放っている、というのが周囲に与える印象を正確に表す表現だと思います。
そんな容姿と雰囲気に、良く笑う明るい性格、学力という意味での頭の良さは全く無いけれど、きちんと場の空気を読んで発言や行動ができて嫌味なところが無いとあって、男性はもちろん、多くの女性もエリナのまわりには集まって可愛がっていました。
異動初日から、その可愛さに魅了された私でしたが、何と最初はエリナの方から私に声をかけてきてくれたんです。
レイコさんって呼んで良いですか?
異動直後のあいさつが終わり、机の整理をしていると背後から声が聞こえ、振り向くとそこにエリナがにこにこして立っていました。
可愛い・・・
ここでは私の方が長いけれど、きっと仕事はレイコさんの方が知っていることが多いから、いろいろ教えて下さいね。もちろん私でわかることなら何でも教えますからって、可愛い舌をぺろっと出しながら話しかけてきたんです。
私は同性相手にきゅんっとなっている自分にとまどいながらも、完全にエリナの虜になっていました。それでもそんな感情を絶対に悟られまいとその後もエリナに対してクールに接していました。
するとエリナは、レイコさんって本当にクールで素敵。他の人とは全然違う。何か他の人って、私と話すときは愛想笑いする人が多いんですよ、って口をとがらせて言いました。
違うよエリナ、それはエリナの可愛らしさに微笑まずにいられないんだよって言ってあげたかった。でも私はそんな本心は隠してクールに、へぇそうなんだ、と言って自分の心の中をごまかしていました。
エリナは良くプチレターもくれました。小さなメモ用紙や大きめのポストイットに、レイコさん今日はお疲れ気味ですね、ファイト!とか、今日は悔しいことがありました(泣)。レイコさん、後で絶対聞いて下さいね!など、可愛い絵と可愛い丸文字で丁寧に書き込んで、私がちょっと席を外した時に私のパソコンに貼ってあったりするんです。
そして、レイコさんが異動してきてくれて本当に良かった、他の先輩って、作り笑いを浮かべている感じで信用できないんですよ・・・。何でも話せる先輩がいるってこんなに心強いんですね!って無邪気な笑顔で言ってくるんです。
本当に嬉しそうな笑顔で。エリナに犬のしっぽがあったらちぎれそうなほど振ってくる感じで。
もう、異動して一週間もしないうちに私はエリナを独り占めしたいという感情でいっぱいになり、エリナの笑顔にメロメロになりました。
でも、エリナと付き合っていくうちにわかったんです。
この娘は、私をイライラさせる存在になっていくんだってことを。
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