第03話 遭逢(そうほう)

(遭逢:遭遇すること)


 私はある製造業の管理部門で働いていました。大学を卒業して入社し、六年が過ぎて中堅の一歩手前という時期に、事業所が変わり、生活圏も変わるという異動がありました。

 それは仕事で失敗したとか、人間関係のもつれとか、派閥抗争のとばっちりとか、そんなどろどろしたものとは全く無縁のキャリア形成の一環のための良くあるジョブローテーションでした。

 私はもともと就職と共に実家を離れて一人暮らしを始めていたし、将来を約束した恋人がいたわけでもなかったので、特に異動に問題はありませんでした。

むしろ今までの職場の人間関係をリセットできるのは、ちょっとありがたいくらいでした。

 それまでの職場の人間関係が悪かったわけではありません。それでも同じ場所に数年もいると少しずつ積み重なってできる人間関係のよどみ、みたいなものが私のまわりにも積もりつつありました。それがリセットできるのは、ちょっと心が軽くなりそうで良かった、と感じていました。

 組織の中で働いたことのある人なら、わかってもらえる感覚と思います。

プライベートでも少し面倒くさくなった同性のグループのつきあいや、恋人未満の微妙な異性との関係を一度リセットするのもいいかも、なんて思っていた時期でもありました。

 私はもともと人間関係にそれほど期待や依存をするほうでは無いし、集団でいるよりひとりでいる方が落ち着く性格でした。ですから今までの職場や人間関係にも未練はないし、かと言って新しい職場にもそれほど期待もしていない、そんな心境でした。

 今までありがとう、落ち着いたら連絡するね、という感じで軽くあいさつをして生活環境を変えることが出来ました。

 そして街で見かける桜が息苦しいほど満開になり、これから全てが新しく始まるような感覚になる季節に、私は異動しました。


 そして異動した先の新しい部署に彼女、エリナがいました。

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