正義の味方

「龍神さん、龍神さん」

「何でぇ、嬢ちゃん」

「正義って何ですか? 創作物には、よく、正義の味方という、正義を理由に戦う役柄や団体が出てきますが、彼らの戦う理由は、それぞれに違います。もし、正義というものがこの世に存在するのであれば、同じ正義を振りかざし戦う彼らの理由がそれぞれ違うのは、おかしな話ではありませんか?」


 手に持った、子供向け特撮ヒーローの絵本から顔を上げて、私は水槽の中の龍を見た。彼はぼんやりと虚空を眺めながら、何かを考えるように首を傾げる。

 やがて、彼は静かに語り始めた。


「正義っていうのはな、人がそれぞれ持つ、絶対に譲れないものだ。信念という言葉で表してもいい。面白いことに、この世には一人として同じ人間はいない。だから、守るべき大切なものが、全く同じ人間はいない。人それぞれに違う大切なものを、正義と呼ぶのなら、戦う理由が同じ『正義』という名称でも、その中身が違うのは、納得できる話でないかい?」

「……では、どうして人間は、それに『正しい』なんて名付けてしまったんでしょうか。人それぞれに違うなら、それが正しいか間違ってるかなんて、誰にも分かるはずはないのに」

「そりゃ嬢ちゃん、簡単な話だ」


 龍神さんは、ギラリと牙を見せて微笑んだ。


「それを守るのが、自分にとって正しいことだからだよ」


 他人にとってのことなんか知ったこっちゃないと龍神さんは言って、クツクツ笑った。

 私は黙って、正義のためにと叫ぶヒーローの顔をなぞった。

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