第3話

【わたしは】

 不思議な夢を見る。そんな気が、今夜もしている。

 週に2回まで、見られる奇妙な夢。翌日ほんとうになる、奇跡の夢。

 その夢を見るのは不定期。毎週何曜日、みたいな決まりもない。

 内容もバラバラ。小テストを解いている夢を見て、翌日同じ範囲のテストが出て満点をとったこともあれば、数学の問題をみんなの前で間違えて恥をかいた夢を見てはほんとうに間違いを防げず恥をかいたこともある。その辺、我が夢ながら信憑性は特段高いのだ。

 さて昨晩は、とても嬉しく恥ずかしい夢だった。小学校時の同級生で、6年生のときに恋をしていた男の子に登校路で会う夢。なにも話せずに、わたしも友達といたからか、ちぐはぐのまま離れてしまったようだ。

 でも確かに、わたしたちは恋をしていた。

 わたしは、彼にすきだって言った。

 彼もまた、わたしがすきだと言った。

 当時のわたしには恋が叶った喜びは嬉しすぎて、真っ赤になって涙目になった。そんなわたしの顔を見て、彼はひどく慌てていたのだ。

 だが程なくして、わたしたちは一緒にいられなくなる、ことになる。当時のわたし史上最大の決断だった。成績もよく、明るく壮大な将来を夢見ていたわたしは、県立の名門中学校への受検を決意する。県立高校トップの成績をここ20年維持し、県内公立の頂点とさえ呼ばれる高校に5年ほど前に併設された付属中学校。新築校舎ではなかったが、140年の歴史ある学校と整った教育環境、ICTをフル活用した特色ある授業。さらに当時のわたしはこれでもかと言うほど、その中学校の制服に憧れていたのだ。セーラーの襟にえんじ色の三本線が斜めに入るユニークなデザイン。真っ赤な既成リボンに名刻の名札。学校名の入った大きなスクールバッグに茶色く光るローファーを履いた女子生徒は、学校紹介パンフレットの表紙で誇らしげに笑っていた。

 成績、申し分無し。内申、申し分無し。児童会の副会長を5年生にして務めあげ、放送委員会の副委員長も務めた。絵を描き、字を書き、作文を書いては表彰された。両親はともに高卒で、英才教育を強いられてきたわけではない。それなのに芸に長けたわたしを、周りの大人は大いに褒めて称えた。体育は少し苦手だったけど。

 当時テストの点数を競い合っていた友達は、同じくして中学校受験の結果県下ナンバーワンの私立学園に入学した。

 そんなわたしが、県内で五本の指に入るような名門中学校に倍率3.4倍をくぐり抜けて合格した話は、瞬く間に広がった。ちょうど、私立中受験、国立中受験と県立中受検はみな違った日程であったため、私立学園に受かった児童を称えるムードがすこし弱まった頃にわたしの偉業は伝えられた。クラスの祝福ムードは再燃し、時を同じくして受検した、ぶりっ子だと忌み嫌われていた女子が不合格だったというニュースとともに、その女子を貶してはわたしを称えるというよくわからないが異様な空気が漂っていた。

 こんなことは考えたくもないが、もしかしたらその女子が嫌われることでわたしへの風当たりが殊更に良くなっていたのかもしれない。

 過去の栄光に縋る話は痛々しいからもうやめにしよう。

 

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